時代の病理 目次
はじめに 吉本隆明
[Ⅰ]〈個〉としての病理現象
1 現場から
カウンセリングの方法
カウンセラーはどこまで付き合うのか?
2 九割のひとがカウンセリングを必要とする時代
心のなかの三つの層
3 〈不安〉はどこからくるか
気持ちを安心させる方法
4 母親と乳胎児期の関係
なにが母親の胎内で刷り込まれるのか
[Ⅱ]〈社会〉問題としての病理現象
1 老齢化社会と死
脳死は人の死か?
老齢化の延長が〈死〉ではない
2 〈寝たきり〉老人への誤った誤解
有効な老人専門のカウンセリング
3 母親がつくる身体図式
胎児は「聴覚映像」として記憶
幼児教育問題と登校拒否
4 宗教現象と若者
麻原彰昇の極限の修行体験
[Ⅲ] 転換期における病理の行方
1 「バブル現象」の核心
新しい公害病
2 わが不況からの脱出法
世界最強の日本の民衆
3 水平線上に見えてきた未知の〈倫理〉
母系社会における男女の二重性
あとがき 田原克拓
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はじめに 吉本隆明
目次
あとがき 田原克拓
はじめに
「全日本カウンセラー協会、ポルソナーレ」の田原克拓さんと対話していて、稀にみるほど興味を惹かれた。長年、相談にくる人たちのこころのかすり傷や、きり傷や、深手の傷の世界にむき出しの意欲と意志でつきあって、倦むことのなかった田原さんの言葉には、相談を仕掛けてくるこころたちの生々しい臨場性が転移してただよってくる感じで、対話しているときびしい、そしてやや奇態な波立ちの世界が、田原さんの言葉といっしょにこちらにもひとりでに伝わってきた。そして久方ぶりに人間のこころの世界の実像を覗き込むおもいをしながら、一種の緊迫感のただようくら闇の海のひろがりに面している実感をもった。人間をこころとしてみたときの像は、輪郭のない、そして生理的な肉の匂いが立ちこめて少しむき出しになった人間像としてみえてくる。田原さんとの対話はずっと忘れていたこの混沌とした現実世界の水面下に荒い波をたてているこころの海の象徴像を蘇らせてくれた。
ことに対話のなかでカウンセリングにやってくる男女のオナニーの意味に触れたところでは、人間のこころの世界の異常な高波にぶつかり、それに耐えながら、通り道となる水脈や水路を長い年月きりひらくことに専念してきた田原さんの力量をずっしりと感ずる思いがして、人間というこの果しない不可解さをもったこころの存在を、眼のまえに見るようだった。人間をともすれば、整合されたこころの秩序をもった存在として片づけようとする社会的生活にまぎれたわたしの眼から、覆いをとり払うような対話の時間をもつことができて、また新鮮な気分を立て直すことができたと思う。これが何よりも収穫だった。
田原さんに触発されて、わたしの方もぎりぎりのところで何か言えている部分が少しでもあったらという思いがしている。田原さんが遠慮ぶかい言葉で発言している分だけ、こちらはこころの病理からみられたこの時代の未知に立ち向かわなくては、という意欲を新たにかきたてられた。
吉本隆明 |