■相談の事例
「私は、31歳の女性です。高校を卒業して、友だちをつくろうと思い就職しました。歯科医院に勤めました。
一年目の人間関係はとても順調でした。2年目から人間関係がおかしくなって辞めたい、嫌だ、とばかり考えるようになりました。辞めてパン屋でアルバイトをするようになると、赤面症、震え、目のひきつりの症状が出るようになりました。週に2日しか働いていないのに、家の中でも嫌だ、嫌だ、辞めたいとばかり考えています」
(高田由美子。31歳。女性。アルバイト。芦屋市高浜町)。
(注・人物は仮名です。特定の人物とは無関係です。特定の地域、職業、団体とも関わりはありません。
相談の内容もいくつかの内容を合成して再構成してあります)。
■相談の内容
私は、31歳の女性です。週2日のパン屋のアルバイトをしている日の以外は、家にいます。このアルバイトも嫌で、辞めたいとばかり毎日思いつづけています。
なぜ、こう思うのかといいますと、手の震え、顔のひきつり、声の震え、対人緊張があるからです。
パン屋でお客の接待をする時にも、店にお客が入ってきただけでもこんなふうな症状が起こります。パン屋のアルバイトは週に2日しか行っていませんが、一人で家にいる時も対人緊張の症状が思い出されてきて、嫌だ、辞めたいとばかりを考えています。
私は、高校では友だちがたくさんいました。仲のいい友人が何人もいて楽しい毎日でした。お互いの家に行ったり来たりで、好きなことをやったり、出かけていったりで充実していました。
母親が、「人間は勉強じゃない、学歴なんかあっても結婚できなきゃ女としての人生は落ちこぼれだ」と言うので、勉強がニガテな私はその気になって、高校を卒業すると就職することにしたのです。
高校のときの友だちは、専門学校や短大、大学へと進みました。だから、私の就職の目的は友だちをつくることでした。
就職したのは歯科医院でした。
最初の一年間は、スタッフの皆さんととても気が合って、とてもいい関係でした。ところが、一年もしないうちに5人ほどいたスタッフがみんな辞めてしまったのです。2年目になると、新しく変わったスタッフとの人間関係が嫌になってきたのです。スタッフというのは、みんな女性ばかりです。
同じ職場なので話をしないというわけにはいかず、毎日、嫌だ、嫌だと思いながら仕事をしていました。
すると、仕事に行くことを思うだけで胸が苦しくなり、無気力になってきたのです。毎日、母親に辞めたい、辞めたいと言っていたら、「そんなに嫌なら辞めればいいのよ」と言われ、すぐに辞めました。
仕事を辞めたら、もっと仕事そのものが嫌になってきました。家にいて、自律訓練法とか、神経科のクリニックに通いました。インターネットで調べて良さそうなところに多額の費用をかけて通いました。
全く効果はなくて、症状はもっとひどくなりました。手だけ震えていたのが声も震えるようになってきたのです。
何かをしゃべろうにも、喉が詰まって、変に高い声がアヒルの鳴き声のような調子で出てくるようになったのです。
父親が、そんな生活をしていると精神科に入院して、人格も崩壊するぞ、と言うので、週に2日だけアルバイトをするようにしたのです。アルバイトはパン屋です。
今は、いつでもどこにいても、いつも不安が頭に浮んで気が休まりません。お客さんに接する時、話をする時、品物を渡す時の全てが苦痛です。一日がとても辛くてしかたがありません。
とくに困るのが、顔のひきつりです。手も震えるのでお客さんも緊張するのが分かります。店に出ない日も、家の中で自分の症状のことばかりを考えて、頭からただの一分間も離れなくなりました。
●ポルソナーレの指示性のカウンセリングとは、こういうものです
平成19年9月30日の日経に、内閣府の「男女共同参画社会にかんする調査」の結果が報道されていました。調査の項目の一つに「仕事と家庭のどちらを優先するか?」がありました。
この問いに答えて「仕事を優先する」と答えた女性は17.3%、男性は40.2%であったということです。
全体をとらえてみると男性も女性も、「仕事よりは家庭を優先する」という意識が強いという傾向が見てとれ ます。そして、その傾向は、男性よりも女性の方が圧倒的に高い、ということが見てとれるでしょう。
内閣府の調査結果に見るような「仕事よりも家庭を優先する」という意識は、日本人に特有の脳の働き方に由来しています。
この脳の働き方は、男性と女性は「性差」ともいうべき構造的な違いがあります。
「女性」の脳は、大脳辺縁系から左脳と右脳につなげる「脳梁」(のうりょう)の太さ、長さ、線維の本数などが「男性」よりも多いし、大きいのです。また、大脳辺縁系から左脳、右脳につなげるパイプラインが「脳梁」のほかに、「前交連」(ぜんこうれん)も持っているのが女性です。
もし、女性が、「左脳」でしか学習できない「仕事」とか「仕事の中の言葉」、「社会の中の知的な言葉」を「全く学習して憶えていない」という場合は、女性は、「大脳辺縁系」の中の「生」(なま)の感情や欲求の中枢神経と、視床下部の「視索前野」(しさくぜんや)の「人間関係」とそのための「言葉」とをむすびつけた脳の働き方をします。その典型的なモデルがご紹介した相談の事例です。事例の女性は、母親も含めて、「仕事とは、友だちをつくることだ」もしくは「結婚の相手を見つけることだ」というように意味づけしています。もちろん「仕事」には、「友だちをつくる」とか「結婚の相手と出会う」などという意味はありません。そういう意味は、どのような辞典にも載っていません。事例の女性は、「仕事」にたいしての関わりが初めから孤立状態にあるのです。
「左脳」の前頭葉は働きが止まっていて、知的な意味や価値を創り出す、という「精神性」が働いていないことが分かります。
サービス業ならば、「お客」にたいして価値のあるものを提供するとか、その結果の利益を追求する、という「左脳・前頭葉」の働きが止まっています。これが「うつ状態」もしくは、「うつの症状」の始まりです。
このような「うつ」の発生にともなって、「嫌だ」「辞めたい」という関わりを拒否したり、自分から遠ざける「言葉」を「仕事」に「意味」としてむすびつけています。これが、「右脳」に「不安のイメージ」を表象させるのです。表象とは、「右脳」に無意識のイメージを思い浮べることをいいます。大脳辺縁系にある「線状体」が「不安のイメージ」を表象させます。オペラント条件づけにより、「うつの症状」のイメージを表象させるのです。
「オペラント条件づけ」とは何のことか?といいますと、人間の脳は、「言葉」と「行動」が正しく一致していない場合、五官覚の知覚(目、耳、鼻、舌、皮ふ感覚のことです)に受け取った神経反射のとおりの内容が「右脳にイメージされる」という脳の働き方の特質のことです。事例では、「仕事」を「友だちづくり」という生(なま)の感情で意味づけしているので「友だちなどいない」「友だちを作る場所ではない」という人間関係の孤立(うつ病)がオペラント条件となって、「線状体」が「不安」(うつの病症)のイメージを「右脳」のブローカー言語野の3分の1のゾーンに「クローズアップ」のイメージとして表象させているのです。この「クローズ・アップのイメージ」は、「孤立している自分の表情や、誰と何の関係ももっていない自分の動作の姿」であるでしょう。これが「震え」などの知覚症状を、「中隔核」や「側坐核」の記憶から想起させるのです。
ここに、「嫌だ」「辞めたい」という「記号としての言葉」を「仕事」にむすびつけると、甲状腺異常のような交感神経の過緊張をつくり、つねに、何かの「不安」から追われているようなイメージがくりかえし反復して表象されるのです。このようなパニック発作ともパニック障害ともつかない自律神経の交感神経の過緊張が、脳梗塞や「ガン」などをつくる血流障害の原因になることは、ポルソナーレのゼミでレクチュアしているとおりです。 |