■相談の事例
「私は、31歳の女性です。幼稚園の保育の仕事をしています。私は、人間関係がニガテです。3人以上で会う時はいいのですが二人になると必ず、不安になります。何を話していいのか、分からなくなり、苦痛に感じます。身体がひとりでに固くなります。夜になると勝手に不安なことが思い浮んで眠れなくなることもしばしばです」。
(大平恵津子。31歳。幼稚園保育。大阪府松原市)
(注・人物は仮名です。特定の人物とは無関係です。また、特定の地域、団体、職業とも無関係です。相談の内容もいくつかの内容を合成して再構成しています)。
■相談の内容
私は、人付き合いがニガテなことと、口ベタなことで悩んでいます。付き合いが浅いうちは、友だちも「性格がいいね」とか「何でも話したくなる雰囲気の人だね」と言われることもあります。でも表面的にしか付き合えなくて、自分から積極的に打ちとけていき、親しくなって、おしゃべりを楽しむ、ということはできません。
ごくたまに、中学、高校、大学時代のころの友だちと会うことがあるのですが、その時はいつも3人以上というグループになることがほとんどです。たった二人で会う、というのは苦痛に思えて、いろんな理由をつけて避けてしまいます。
会う約束の日時を決めていても、二人で会うことを思うとだんだん夜も眠れなくなってきて、会うことを断るまで、体の調子も思わしくなってきます。体が冷たくなってきたり、目まいやフラつき、頭が重くなってくるのです。
頭痛がしたり、疲労感がひどくなって、不眠にもなります。
とりとめもない嫌な感じが思い浮んで、一分でも早く、一秒でも早く「会うことを止めること」しか考えられなくなってきます。でも、会うことを止めても、頭が重い感じはなくならず、落ちつかない感じと、焦燥感が増えてきて息が詰まるような非現実感の中で生きた心地がしません。そんな抑うつ症がどこまでもつづくので「人に会わない、断る」ということも恐怖なのです。しかし、ムリに会えば、会話もはずまなくなり、目はひきつるし、何を話していいか分かりません。
長時間、一対一の関係になる時は最悪です。気まづくなるのは嫌だからできるだけリラックスしようと努力するのですが、ムリにしゃべるのでぜんぜん面白くなく、表情も不自然になります。まじめな固い話になるか、しゃべりたくもないのに、仕事を辞めたいといった、相手の不安を引き出すようなことを話し出すのです。
頭の中のどこからか出てくる苦痛感で神経がギスギスするようなことが勝手に口から出てくるので、相手もぎこちなくなり、無口になってきます。すると、二人だけで会っているその場が、なぜか、ピリピリした、神経にさわるような雰囲気に変わってくるのがお互いによく分かるのです。
友だち関係が疎遠にならないようにとメールとか電話も時々するのですが、なにか、相手に依存しているような、甘えているような気になってきて、それが嫌で、メールしたり、電話することも止まります。すると、メールも電話もニガテになって、友だちとの関係も疎遠になるという悪循環の中にどっぷりとつかってあがきがとれなくなる、という状態をもう何年もくりかえしています。
今の職場は、幼稚園です。年齢が私より10歳くらい上の女性が多いのですが、中には明るくて魅力的な人もいます。でも、気軽に自分から話しかけられるような同じ年齢の人がいないので、ますますしゃべらない毎日になっています。固い性格も無口なのも私の個性の一つで、それが私なんだと思うのですが、不安を感じるよりも先に、不安を感じてしまった症状が先に出てしまうので、これから先の人生が思いやられます。
恋人もいましたが、別れました。自分からメールしたり、電話することがめんどうで、今日は電話しよう、いや明日にしようと思っているうちに、だんだんメールや電話がひどく緊張するものに感じられてきました。会っても、とりとめのないことをおしゃべりしているうちに帰ろうという時間になります。こういうことがくりかえされているうちに会ってもひどく緊張するようになりました。人付き合いがヘタなためと、口下手なことが原因だと思います。別れてしばらくは気が楽になりましたが、呼吸が速くなって息苦しい症状は、ますますひどくなっている気がします。
●ポルソナーレの「指示性のカウンセリング」とはこういうものです
ご紹介している事例をごらんになってお分りのとおり、不安の症状は、何が不安だ、こういうことが不安だ、と、「不安」なるものを具体的に特定化するより前に、勝手に、ひとりでに発生して起こる、というあらわれ方をします。これは、自律神経の働きの特性としてこういうメカニズムになっているのです。自律神経は、恒常性(ホメオスタシス)といって、生命の機能の維持と、その促進に働いています。自律神経は、大きく分けて、「首から上」と「首から下」の二つの方向では、それぞれ働き方が違います。「首から上」は上向システムといい、「首から下」は下向システムという働き方をします。自律神経は、交感神経と副交感神経の二つが相互に、互いの働きと相互性をもつ、というように働いています。このことは、「首から上」の自律神経の働きと「首から下」の自律神経は、相互に無関係ですが、「首から上の自律神経の働き」の内容が、「首から下」の自律神経の働きに影響を及ぼす、というシステムとして働いています。そうでなければ、「活動性」を促進する交感神経の働きのとおりに、「脳」もまた交感神経の「血流の送り込み」と「エネルギーの消費」だけに特化して働く、という奇妙なことになるからです。こういう「人間」の姿をモデルとしてとらえると、鳥とか、犬や猫のような「身体生活」しか思い浮びません。
人間が、「引きこもる」とか「長期入院する」とか、「毎日、単調な生活をくりかえす」ということをおこなうのは、自律神経の働き方が、「首から下の働き方」が中心になっているからだ、ともいえるのです。「引きこもり」「何も新しいことにとりくまない」「ほとんど楽なことばかりしかせずに、学習したことにもとづいた行動はしない」、というのは、「犬」「猫」「鳥」と同じような「脊髄」「脳幹」「大脳辺縁系」(そして右脳)を中心にした体を働かせる脳の働き方の自律神経のシステムが優位に働いていることを意味します。この「下向システム」を中心にした自律神経は、人間の場合は、つねに、「負の行動のイメージ」が表象されます。
「自分は不快だ」「自分は損をしている」というイメージが「負の行動のイメージ」です。それは、まず「不眠」「寝つきが悪い」「心拍の低下」「呼吸困難感」という呼吸器系、循環器系の自律神経の自己運動(負の行動のイメージに促進されて、ひとりでに起こる交感神経が優位の自律神経の働き方のこと)として発生する脳の働き方のメカニズムといえるものなのです。
「負の行動のイメージ」を日々、つねに自然に思い浮べている人は、犬や猫、鳥と同じような自律神経の働き方をシステムとして固めているといえましょう。
それが、不安神経症の症状のもつ本質的な意味です。 |