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『新潮45』(二〇〇五・12月号) に、橘由歩(たちばなゆうほ、ノンフィクションライター)が三人の女性の「うつ病」を取材してルポを書いている。「ドキュメント・主婦のうつ病」だ。三人の女性 とは「川村敦子、仮名・30歳」、「吉田志保、仮名・40歳」、「山下真由、仮名・35歳」だ。
(くわしい内容は『カウンセラー養成ゼミ』ニューズレター、第136号参照)。 |
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この三人の女性の「うつ病」の症状は、次のようなものだ。
- 「慢性疲労」(自発運動の低下。ベッドから起きて出れなくなる。寝たきりの状態になる。一日中、ソファなどに横になっている。家事、子どもの世話などができなくなる、など)。
- 「覚醒と睡眠の支障や傷害」(早朝、朝4時ごろに必ず目が覚めるという不眠症。また、一日中頭がボーッとしてうとうととしてぼんやりしている。考えることがおっくうになり、なにもかもめんどくさくなる、など)
- 「摂食や飲水行動の支障、障害」(食欲がなくなる。食べものの匂いも鼻について食欲をなくす。食事の回数が減る。水分も摂らなくなる、など)
- 「攻撃的行動の支障や障害」(意欲がなくなる。やるべきことはちゃんと分かっているが、とりくめなくなる。家事ができない、仕事の能率が悪くなり時間がかかる。また、何をやろうとしていたのかを忘れる。思い出せなくなる、など)
- 「学習能力、記憶能力の支障や障害」(言葉が分からなくなる。漢字、人の名前、住所、などを忘れて思い出せなくなる。新しいことを学習できなくなる。学習しようとすると緊張して回避したり、言い訳をして放置する、など)
- 「性行動の支障や障害」(性の意欲が低下する。性機能が不全になる)
- 「中枢性血圧調節の支障や障害」(朝、起きられなくなる。自分を責めたり、罪悪感を感じる。泣く、わめく、イライラする、発作的に死にたくなる、無気力になる、など)。
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●セロトニン欠乏が「うつの症状の原因」 |
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これらの「うつ病」にともなう心身の症状は、脳の左脳の中でおもに「言語」の情報を伝達する「脳神経」の伝達物質の「セロトニン」が欠乏し、枯渇することで生じている。「セロトニン」は、アミノ酸であるトリプトファンから生成される。セロトニンを含有するニューロンの細胞体は「脳幹」の中央部にある「縫線核」に一致して分布している。また、「松果体」にも高濃度のセロトニンが存在するが、その一部は「メラトニン」に変わる。「メラトニン」は、環境の光によって変化する。明るくなると増量し、暗くなると減量して「生体時計」の機能を果している。「セロトニン」が欠乏すると「早朝に目が醒めるパターンの睡眠障害になる」のはメラトニンの量が少なくなってつねに「目を覚ますという生体時計」に傾くためである。
「セロトニン」が、「学習」「記憶」「意欲」に作用するのは、脳神経の伝達物質の「ノルアドレナリン」と連動しているからだ。「セロトニン」が減少すれば「ノルアドレナリン」も分泌が減少するという相関性をもっている。 |
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「左脳の脳」の中で「言語」を伝えるのは「ノルアドレナリン」である。
「ノルアドレナリン」は、おもに4つの働きをおこなっている。 |
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- 「副腎髄質」でアドレナリンに変わる。
- α型のノルアドレナリンは、血管収縮、散瞳、腸管拡張、
- β型のノルアドレナリンは、血管拡張、気管支拡大、心筋の収縮力の増加、伝達速度の増加、腸管拡張
- 脳の中のノルアドレナリンは「脳幹」の「青斑核」に集中して存在する。神経線維は、視床下部、小脳、そして「前頭葉」に送られている。
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「ノルアドレナリンの役割は、「覚醒の維持」「脳の報酬系」「レム睡眠」「気分の調整」などである。
この役割りのうちどれが「言語の働き」に関わっているのか?というと「脳の報酬系」である。「報酬系」とは「ドーパミン」という快感物質を分泌することだ。 |
●ノルアドレナリン |
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「ノルアドレナリン」は「A6神経」の脳神経伝達物質である。
「A6神経」は、脳幹の「青斑核」から出発した繊維を、「左脳の前頭葉」に到達させている。
「左脳の前頭葉」で現実のものごとの概念を確定した時に、対応している「右脳の前頭葉」で快感報酬としてドーパミンを分泌する。「快感報酬」とは、脳の中の「言語活動のメカニズム」のことで、「右脳にドーパミンを分泌させること」をいう。 |
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「うつ病」への薬物療法は、「モノアミン」(ノルアドレナリン、セロトニン、ドーパミンの三つのことをとくにモノアミンといっている。
分子構造が共通しているからひとつにくくられてモノアミンと表現されている)を調整するという目的でおこなわれている。 |
●うつの症状はセロトニンがつくる |
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とくに「セロトニン」の分泌が不足したり、全く枯渇すると、「うつ病」に特有の症状があらわれるので、「セロトニン」が正常に分泌されることを目的にして抗うつ薬の投与がおこなわれている。すると、確かに「うつ病」に特有の症状は、一定度、鎮静化する(憂うつ、イライラ感、意欲の低下、早朝覚醒の不眠症、食欲低下、頭重感、などが鎮静化する)。 |
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しかし、「自発的運動」「攻撃的な行動」「学習・記憶力」「性行動」「中枢性血圧調節」、そして「ドーパミンの分泌をともなう快感報酬」は、薬物療法によっては回復しない。 |
●薬でうつ病が治らない理由 |
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理由は、「A6神経」(ノルアドレナリン)が正常に機能していないからである。
「うつ病」に特有の症状は、「大脳辺縁系」で発生している。「うつ病」に特有の症状とは、「気持ちが落ち込んで憂うつになる」「自分を責める気持ちがつのって悲哀感の情緒がとりつく」「自分は、とりのこされて孤独で、不安だ」などだ。これは、「大脳辺縁系」の中の「線状体」で生の感情が優位状態になって意識されるものだ。「線状体」で「ノルアドレナリン」が分泌されなくなるとただちに発生する症状である。 |
●うつの症状は大脳辺縁系でつくられる |
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「うつ病」を治療する者、あるいは「自分は今、うつ病に陥っている」と自覚してこれを治すと考える者は、「うつ病」の感情面での憂うつや悲哀感、自分はとり残されて不安だ、と意識される辛い苦痛感は、「大脳辺縁系」でひきおこされている、ということを充分に知るべきである。「抗うつ薬」は「セロトニン」と「ノルアドレナリン」(A6神経)の分泌を回復させる。
しかし、その回復は「大脳辺縁系」という脳の部位の範囲のことである。
「うつ病」が発生する直接の原因は、「A6神経」(ノルアドレナリン)が「左脳の前頭葉」で正しく機能しなくなったことである。「左脳・前頭葉」で正しく言語活動がおこなわれなくなると、「脳神経」は、「正しく言語活動がおこなわれていない」という状態をメッセージとして受け取り、「前頭葉」から「大脳辺縁系」まで後退する。
これは、「うつ病」の病理の「ものごとと関わっている」という意識はあるが、しかし、実際は「正しく関わっていない」という状態のことである。「関わりの形式はある。しかし、関わりの中身が無い」(ものごととの関わりの観念はある。しかし、関わっているという実体は無い、でもよい。このケースは、不登校、登社拒否などがあてはまる)。
「うつ病」の薬物療法で正しく判断しなければならないことは「A6神経」(ノルアドレナリン)が関与している症状は、「抗うつ薬」でも消滅しないということだ。これを証明する。 「セロトニン」と「ノルアドレナリン」がつかさどっている役割で、共通するものは、次のとおりである。
「セロトニン」…「覚醒と睡眠」「攻撃的行動」「学習・記憶力」「中枢性血圧調整」
「ノルアドレナリン」…「覚醒の維持」「脳の報酬系」「気分の調整」
この「セロトニン」と「ノルアドレナリン」の共通の働きによる内容は、「A6神経」(ノルアドレナリン)が、「大脳辺縁系」ではなくて「左脳・前頭葉」で働くという機能回復がおこなわれないかぎり、支障や障害として「大脳辺縁系」にとどまりつづけるということを意味しているのである。 |
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浅見鉄男医師の「井穴刺絡療法」は、セロトニンの異常低下の症状を回復する。 |
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「セロトニン」が「血圧の調整」に関与していることは、「うつ病」は「血圧」が高くなり、自律神経の交感神経が高止まりしているということだ。
脳内の血圧が高くなり、脳神経へも送る「血流」が停滞するという「血流のショートカット」が生じている。 |
●うつ病のものの考え方の状態を分かる |
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「ものごととの関わり」が意識の面でつねに継続されていて、「血圧」が全く下がらないという状態が起きているということだ。おそらく、「呼吸」は、「息を吸うこと」が優先されていて「息を吐かない」(口から息を吐かない)ということがつづいている。これが「血圧が高い状態」を下支えしている。 |
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「井穴刺絡・免疫療法」は、この交感神経の過緊張の状態を解消する。
(左右のH5、F5の井穴に刺絡をおこなう)。 |
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「大脳辺縁系」の中の「セロトニン」の分泌とノルアドレナリンの分泌が正常に戻ったところで、次になされなければならない「うつ病の治療」とは何か? |
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「それは「A6神経」が、「左脳・前頭葉」で正しく働くことをおこなうということだ。
ケーススタディにみる三人の女性にとっての「A6神経」の「左脳・前頭葉」の機能回復とは何か?それは、次のとおりである。 |
●うつの病気の治し方。まず、現実の対象についての定義づけをおこなうこと(カウンセリングの方法) |
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(定義づけの例)
1.「結婚」とは「非社会性の世界」で媒介となるものを用いて関わることである(定義)。
2.媒介の優先順位は次のとおりである(定義づけをおこなう)。
一位…食事
二位…そうじ、せんたく
三位…性
四位…子育て
(うつの解消は、これらの四つについての定義をおこない、これにもとづいて、定義づけの条件としての、この四つの「行動」の仕方を、第三者に正しく伝わるように説明する言葉を学習する)。 |