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「個人べつの病気と症状の傾向」 No.130

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「裁判員裁判」に見る「日本型分裂病」のメカニズム

みなさん、こんにちは。
全日本カウンセラー協会・ポルソナーレの谷川うさ子です。

●「裁判員裁判」とは何か

平成21年8月3日から4日間、日本で初めての「裁判員裁判」制度による「第一回公判」がおこなわれました。

「裁判員裁判」とは、「一般市民」の中から呼び集められた「6人の市民」が、「刑事事件」の「刑の量定」をおこなうというものです。約60人くらいが裁判所に呼ばれて、この中から「6人」を「裁判所」が選任します。「補充員」が「2人」だけ決められます。
今回の「第一号公判」では、38歳から61歳の男女で、会社員、アルバイト、栄養士、契約社員、ピアノ教師が、裁判官(3人)とともに「量刑」(刑の重さのこと)を決めました。

「裁判員による裁判」というと「アメリカの陪審員制度」とよく似ていますが、しかし、根本的に違っています。
「アメリカの陪審員」による裁判は、「有罪か、無罪か」を決めます。「死刑、終身刑、20年、10年」といった「量刑」を決めるのは「裁判長」です。日本では、「一般市民の裁判員」が「死刑、無期懲役、20年、10年、8年」といった「量刑」を決めます。「一般市民」が「死刑」を宣告することも当然ありうる、ということが最大の違いです。

平成21年8月3日、東京地裁でスタートした「第一号公判」の事件は、平成21年5月1日に起こった事件です。事件の場所は、東京都足立区です。
72歳の男性が、道路をはさんではすむかいに住む66歳の女性(整体師)を、サバイバルナイフで5回以上も刺して、出血性ショックで死亡させた、というものです。

72歳の男性と66歳の女性の事件の背景には「近隣トラブル」があった、と説明しています。検察側は、「被告(72歳の男性)は、被害者の顔も見たくないと思うほど嫌っていた」と事件の「動機」にかかわることを指摘しています。

●「専門用語」を「易しく言い換える」

この「第一号公判」を傍聴した人は、取材(日経新聞)に求めてコメントしています。
「『未必の故意』を、『死んでしまうかもしれない』と言い換えていた。専門用語をかみくだいて分かりやすくしていた」
「医学用語を分かりやすい表現にしていた。理解しやすかったので自分も裁判に参加している気分になれた」
「検察官は、裁判員によく分かるように図面を使って事件を簡略化していた。漫画のように思えた」

渡辺修・甲南大法科大学院教授(刑事訴訟法)の話。
「刑事訴訟法が、本来、目ざしているのは、事案の真相解明だ。また、公正な量刑の実現だ。この点を念頭に置いているのか、どうかの疑問が残る。被告を置き去りにした拙速な裁判、という危険性もある」。
「今のやり方は、調べる必要がある証拠の数量を減らしているだけに見える」
「本当の意味で市民の司法参加を目ざしていくのであれば、負担の覚悟も求めていくべきだ。
負担をかけませんから、どうぞおいでください、という今の風潮は、誤っている」。

●判決は「15年の懲役」

「4日間」で判決を下した「第一号公判」の結果は、次のとおりです。

  1. 72歳の男性被告へは「懲役15年」(検察側の求刑は16年)の判決を言い渡した。
  2. 量刑の理由
    「被害者は、夫に先立たれて、2人の息子を育てた。それなのに、突然この世を去ることになった。無念だと思っているに違いない」
    「遺族らの悲しみは深い。そして20年という厳しい処罰を望んでいる」
    「加害者は、近隣の住民にも不安感、恐怖感を与えた」
    「72歳の加害者は、離婚した妻が家を出て行ったのは、被害者の女性が、よけいな知恵をつけたからだと日頃から思っていた。だから、顔も見たくないと思っていた。日頃はなるべく顔を合わさないようにしていた。いろいろと不満があっても、ガマンして文句を言わないようにしていた。
    事件の前日、被告は競馬で大負けしていた。深夜まで酒を飲んでいた。
    事件の当日は、外出しようとしていると、被害者の女性が植木の手入れをしていた。
    終わるのを待っていたが、目が合った。自宅の庭先に2,3日前からペットボトルが倒れていたので、文句を言った。ここで言い合いになった。
    サバイバルナイフを取ってくるとやるならやってみろと言ったというが、ここのところの被告の証言は信用できない。
    逃げる被告を追いかけて、ナイフで刺しているからだ。
    このうちの一回は、背中を刺している。
    強い攻撃意思があったと判断される。犯行後は、酒を買いに行って飲み、競馬にも行った。その後、警察に出頭した。公判では、悪かったと反省している。
    これが、求刑の16年ではなく、15年の理由だ」。

    ●「いい経験になりますよ」と誇らしげに語った

  3. 裁判員の公判後の感想
    「裁判官や他の人と一緒に、一つのことをやりとげたという気持ちがある」と誇らしげな表情で話したのは、38歳の契約社員の女性。
    「前の日は、午前3時まで眠れなかった」(43歳の会社員の男性)。
    「きっと、いい経験ができるので、これからの人もがんばってほしい」と呼びかけるのはピアノ教師の女性の話。

このような日本の「裁判員裁判」制度の最大の特徴は、「専門用語が分かりやすく言い換えられて説明されていること」です。裁判所、検察庁、弁護士の三者が、裁判員に「未必の故意」を「殺すかもしれない」と「分かりやすく説明している」ところが典型例です。

これは、脳の働き方のメカニズムに置き換えると、日本語だけに特有の「言語の生成のしくみ」の「和語の文法体系」の中への「取り込み」になります。日本語は、和語(やまとことば)と漢字・漢語との二つで二重になっています。
和語は、「縄文時代の晩期」につくられて、「漢字・漢語」は、「弥生時代」に輸入されています。「和語」の「文法」の中に同化させられました。

●「日本語の文法」は「内」か「外」かを区別する

日本人は、今もこの「和語・やまとことば」の「文法体系」をそのまま使っています。
国語学者・大野晋の研究と実証によれば、日本語(和語)の「文法の基本語」は、次のようなしくみになっています。

  1. ものごとを「内(うち)」か「外(そと)」か、に区別する。
  2. 内(うち)のものは安心で、親愛できて、親しめるが、しかし、時には、侮蔑して、尊大に扱ってもよい、とする。
  3. 外(そと)のものは、恐怖で、恐ろしいもので、近づいてはいけないものだ。外(そと)のものは、自然のままに成り行きにまかせる、と扱う。
    この成り行きにまかせることが「敬意を払うこと」だ。
  4. 外(そと)のものとは、おもに「自然物の食物」のことだ。縄文時代の食物は「トコロイモ」(山イモの一種)だった。やがて、ヒエ、アワ、ソバが加わる。
    弥生時代になって「稲」(米)が主役の食物になった。
  5. 食物の自然物もまた「外」(ソト)のものだ。だから「恐ろしいものに支配されているもの」だ。
    そこで、食物の再生を願って「神話」がつくられた。その神話は、祭儀化される。この中に感謝とおそれをこめた「いけにえ」が行動されて、語りつがれた。この「いけにえ」とは、家の中(村の共同体の中)で「娘が殺される」「死体は、バラバラにして、食物となる植物の根元に埋められる」、というものだ。

    ● 日本の元・神話は、家の中での「二度の殺害」を起源にする

  6. だが、日本の神話は「稲」を中心とする神話が「主」となると、「トコロイモ」を主題にした神話は、「民話」の位置に転落した。その原型となる民話は『瓜子姫』だ。
  7. 『瓜子姫』(民話)では、「二つめの殺害」が加わっている。
    一つめの殺害は、「食物の再生」を願うもので、敬語、尊敬語、謙譲語の発生の原型になっている。
    二つめの殺害は、日本語(和語)に特有の「尊大語」「尊大表現」の発生の原型になっている。

社会言語学者、鈴木孝夫は『ことばと文化』(岩波新書)の中で、この日本の「神話」から格下げになった「民話」と「日本語」(和語)のしくみについてこうのべます。

  1. 日本人の尊敬語に「貴様」というものがある。初めは自分より上位の人へ向かって話す言葉だった。
  2. だが、日本語のどんな敬語にもいえることだが、「何度も、反復して使われると、尊大語に変わる」。自分を上位に置いて、相手を見下すための言葉に変わるのだ。「御前」は、もともと「神様の前」の意だった。しかし、反復してくりかえされると「上から下に見下す」ための言葉になって、「お前」と言う。
    さらに「てめえ」となって「ののしり語」にも用いられる。

●日本人は「尊大語、尊大表現」で「他者」を殺してもよいと考える

「裁判員裁判」とは、このように、内(うち)への取り込みによって『瓜子姫』の説話の「二度目の殺害」がおこなわれているのです。日本人の「尊大語」とは、「会社をお休みします」(電話連絡)のように、自分の行為に『お』という敬語をつける形式で、日常的におこなわれています。
「人の殺害」にかぎらず、「不登校」「外出不安」「引きこもり」「心の病気の人の放置」などが、「専門用語を易しくしてもらって嬉しい。自分からわざわざ調べなくていいからこんなに楽なことはない。人を裁く、といういい経験ができてよかった」、というように、内(うち)への取り込みという「尊大表現」へと活用させられているのです。

●そこで、日本語の正しい習得と、もっとものぞましい表現の仕方を教えているのが『谷川うさ子王国物語』です。

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