みなさん、こんにちは。
全日本カウンセラー協会・ポルソナーレの谷川うさ子です。
●『言語にとって美とはなにか』の読み方
吉本隆明の書いた『言語にとって美とはなにか』(勁草書房)には、「人間は、言葉というものをどのようにつくり出したのか?」ということについて、次のように書いてあります。もし、この本をお持ちの場合は、第Ⅰ巻の33ページから34ページを開いてみてください。
要旨をリライトしてご紹介します。
① 原初の人間は、労働ということをやっていた。(食べ物を手に入れるために働くことや、食べ物を手に入れるためのあれやこれやの行動のことです。)
②こういう行動をやっているうちに、目や耳、手の働きも行動の反復にともなって経験そのものを記憶するようになってきた。
たとえば、すっぱい梅干しをなんども食べると、その梅干しの匂い、味、色、形を記憶するというような記憶の仕方だ。
その梅干しは、毎朝、食卓に出てくる梅干しだ。
このように、同一の対象と関わりをもって行動する、というときの記憶を「長期記憶」という。
注・この長期記憶にたいしてごく稀にしか行動の対象にしないことを「短期記憶」という。
「短期記憶」の内容の例
- 数年に一回しか行かない海外旅行の経験
- 暗記中心の勉強
- ネットで「調べること」
- 複数の恋愛体験
- 英会話教室に通って「英会話」を憶えること
- その他
●「長期記憶」とはこういうものです
③ 「長期記憶」は、自律神経の働きによって、右脳系の「前頭葉」につねにイメージを思い浮べるという脳の働き方を生み出した。
①の例でいうと、「梅干しを毎日食べる」という行動は、いつも、1日24時間、1年365日、「梅干しのイメージ」を「右脳系の前頭葉」に思い浮べさせる。
注・この「梅干しのイメージ」は「イメージが恒常的に思い浮ぶ」ということのモデルである。人間の長期記憶の対象は、アメリカの認知発達言語学者の観察によれば、母親の顔からはじまって、家の中の空間(浴室と台所など)のカテゴリーと、家の中の動くものと動かないもの(人、生き物、おもちゃ、ベッド、イスなど)のベクトル(方向性をもつ動きのこと)を、イメージとして思い浮べる。この恒常的に思い浮ぶことを表象(ひょうしょう)という。
したがって、人間が恒常的に思い浮べるイメージは、ある特定の対象とは限らず、つねに、形を変え、内容を変えて何かをめまぐるしく思い浮べる。この恒常的に思い浮ぶイメージのことを「メタ言語」という。
●「観念」とは何か?について説明します
④ このメタ言語としての恒常性のイメージは、「ある具体的な対象のイメージを思い浮べる」という性質をもつというように発達する。
注・子どもの認識の研究の創始者ピアジェ(スイス、発達心理学者)は、0歳8ヵ月の子どもについてこうのべる。
- 興味ある対象が目の前から消えると、その対象をじっと見ていた動作をそのままつづける。
大人が、物を落した時、その物を落した動作をしばらく持続することと同じ現象である。
乳児は、生後数ヵ月はこの状態がつづく。
- たとえば、対象が床に落ちると、手を見るのではなく、探し求めて床を見つめる。しかし、すぐに対象が見つからなければあきらめてしまう。
- 乳児(0歳8ヵ月から12ヵ月ごろまで)の目の前で対象をカバーで隠すと、カバーを取り除き、ほしい物を取る。
だが、目の前のA点で物を隠して、次に、その物を目の前B点に移してカバーで隠すと、乳児は、B点ではなくてA点のカバーを取り除いて探す。
⑤ このピアジェの観察は、「物が隠れて見えなくなっても存在する」ということを認識するか?という問いかけにたいして、「探す」という行動の観察だとして、アメリカのコーネル大学の「スペルケ」らの研究グループは、「0歳4ヵ月」の乳児の「注視率」を測定するという方法で「物は、隠れて見えなくなっても存在する」と認識することを確かめた。
このことは、0歳4ヵ月の乳児の「右脳系の前頭葉」に、「隠されたもの」という特定の対象が指示されて表象されている、ということを実証するものだ。
●言語本質「一義性」ということについて
⑥ このように、現実の対象とむすびつくことができるという「一義性」のメタ言語のイメージを思い浮べるようになると、次に有節音声を発することができるようになる。
注・このこの有節音声とは、日本の原日本人の場合は、「a,i,u,o」の4つの母音だった。
国語学者・大野晋は、日本人の「有節音声」と「指示することができる像(イメージ)」について、こうのべる。
- 日本人の母音のi(い)は、「こと」「もの」「ひと」をあらわす概念だった。
- u(う)は、「持続」をあらわす概念だった。だから「座る」(すわる)「居る」「有る」「はべる」などの終止形は、行動が止まっていても、行動の持続を意味していた。このことで、日本人は、ひきこもり、長期失業、長引く薬物療法などの社会的な行動が止まっていても本人の脳の働き方は「自分は行動停止はしていない」と無意識のうちに考えていることになる。
●「観念」とは「身体」と同じように実在するものです
無藤隆は『赤ん坊から見た世界』(言語以前の光景・講談社現代新書)、アメリカやイギリスの認知言語学者らの実験や観察をとおして、新生児、乳児の「言葉をしゃべらない段階のイメージ思考」とこれにもとづく「行動」を紹介しています。
『言語にとって美とはなにか』で書かれている「自己表出性」や「恒常的に思い浮ぶ像を指示する」「これによって、自己を対象化することができるようになった」などの定義を実証的に裏付けます。
このような「恒常的に思い浮ぶイメージ」と「有節音声によって、現実の対象を指示するイメージの像」をさして「人間の観念」といいます。
「人間には観念というものがある」ということを言語の生成のメカニズムをとおして定義したのは、『言語にとって美とはなにか』が初めてです。
●日本人の「妄想」の特質についてレクチュアします
問題は、「人間には観念というものがある」ということを理解しない場合、どういうことが起こるのか?ということです。
「現実の対象とは一義性をもたない」というのがメタ言語のイメージ(像)です。そこで「一義性をもたせる」という言語の文法の能力が必要になります。
日本語(和語)は、この「現実の対象と一義性をもたない」(メトニミー metonymy・換喩)で成り立っています。
注・「メトニミー」の例…「きつねうどん」「おぜん」(食事のこと)、「四つ足」(けもののこと)、「たこ焼」「赤ずきんちゃん」、「犬も歩けば棒に当る」、「幸せ」「ごちそう」、「いじめる」、「水商売」「恐い」「不安」「うらめしい」「おもしろい」等々。
日本の対人不安、強迫観念、対人恐怖などの日本型の分裂病は、このメトニミー(換喩)によってつくられています。日本人の妄想は、メトニミーの言葉の例に見るように「たこ焼」「きつねうどん」「赤ずきんちゃん」のように、「そのもの」ではなくて、「別のもの」に置き換えたイメージとして成立しています。つまり、「A」のものをいうときに「B」のものをもって表現するので「Aのもの」が何であるかが分からなくなるというのが日本型の妄想の特質です。
これは「現実のもの」を確かめるとか、その現実のものについて特化して独力で思考するということよりも、「すでに自分の頭の中に思い浮んでいるイメージを信用する」という病理を生むのです。
こういう病理は不適応とか、「うつ」(孤立)という症状をつくり出します。
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