■相談の事例
私は大学生です。好きだと言ってくれた男性がいます。私も好きなのですが、会えば緊張してよそよそしい態度になって後悔しています。私を見る異性の目のどの視線にも緊張するようになりました。
(井川智子。21歳。女性。大学生。福岡県福岡市)、(注・人物は仮名です。特定の人物、職業、団体とは無関係です)。
■相談の内容
私は、大学3年生です。今年の1月頃、同級生の男性が「好きだし、ぜひ付き合いたい」と言ってくれました。私もしだいに彼のことが好きになりはじめました。
4月ごろになって、この男性の友だちの男の子と友だちになりました。この男の子と何度か会って話している時に、私を好きだと言ってくれた男性の「性的な素行の派手さ」のことを聞きました。私は、この話を聞いて動揺しました。好きだと言ってくれた男性の過去の女性関係や性的な話を聞いていたのですが、無理して笑って聞いているうちに自分の顔の表情が気になり、相手の視線が気になって表情がこわばるようになってきました。
私に、好きだと言ってくれた男性の性的なことを話してくれた男の子は、次の日から私に抱きついてきたり二人きりで会うように連れ出したりするようになりました。私も好きだと言ってくれた男性への反発心からこの男の子に気持ちが傾いて、彼の話す性的な話をおもしろがって聞いていました。でもだんだんに、「男の子は、何を考えているのか分からない、陰で何をしているのか分からない」という不安がつのってきて、クラスの男の子の私を見る視線にも不安を感じて表情がぎこちなくなりはじめたのです。
私は、サッカーのサークルのマネージャーもしているのですが、ここでも異性の目を気にして顔の表情がこわばりぎこちなくなって、サークルにも行きづらくなりました。
私は、一時的にせよ、人の話だけを一方的に聞いて「好きだ」と言ってくれた人の過去にこだわったことを恥じました。今は、彼のことを好きだと思っているし、お付き合いをしたいと思うようになりました。
私を好きだと言ってくれた彼に、学校で偶然に会いました。
私は、対人緊張の中にいたのでとてもぎこちない態度をとってしまいました。私から電話をかけることになっていますが、電話さえかけられない状態です。彼もなんだかぎくしゃくしてしまい、私は、すっかり自分に自信がなくなってしまいました。電話にしろ、メールにしても、まるで相手を嫌っているような態度をとったらどうしようと、不安で何もできない状態がつづいています。
今では、女の友だちと電話で話しているときも自分の顔のひきつりを感じます。こういうのってどうも声の「表情」にも出るらしく、相手の方もそそくさとシーンとした雰囲気に変わり、電話を切りたがっていることが分かります。すると私は、ここでも相手の「視線」を感じるのです。
学校でも誰かとしゃべっている時に、まわりで私のことを見ている人がいるとそれが気になって、笑顔が出せなくなりました。
顔のひきつりを感じて、話せなくなってしまうのです。
この頃では、男性から必要以上に目を受けられている自分を変に意識するようになっています。興味あり気に見られているような気がして不安を感じています。
じっと見られたり、話しかけると、そのたびにそれが苦痛になっています。表情がぎこちなくなったり、ムリに笑顔をあらわしてもすっきりとせず、ひきつったり、真顔になったりします。すると話もできなくなって困っています。
私は、このまま対人緊張がひどくなって、いつか誰とも話せなくなってしまいそうでそれが心配でたまりません。
● ポルソナーレの指示性のカウンセリングとは、こういうものです
相談の事例の女性は、まだ「恋愛」ともいえない段階で、恋愛関係の中の人間関係に「不安」を感じていることが分かります。
「恋愛」にしろ普通の人間関係にしろ、「関わりをもつ」という行動が止まっている状態が起こっています。この行動が「止まる」というところで「不安」や「緊張」や「恐怖心」が発生しています。それは、「笑えない」「ひきつる」「表情がこわばる」「電話がかけられない」「態度がぎくしゃくする」といったふうにあらわれています。
脳の働き方から説明すると、人間の行動は、「行動している時」は、その行動は「楽しいこと」「自分にとって利益になること」ということのいずれかの意味が「右脳」にイメージされます。このときの行動には、どういう言葉が考えられてくっつけられていても、「行動する」ということが止まっていない場合は「楽しいこと」や「自分にとっての利益になること」という欲求や感情が「右脳」にイメージをつくるのです。
この「行動がある」ときの「言葉」には二とおりがあります。「恋愛」でいうと、「相手に特別な感情をもつこと、しかも、一緒にいたい、合体したいと思い、時には喜びを感じることもあるが、この気持ちのために苦しい思いをすることが多い」という「恋愛」の本来の概念にもとづく意味を「右脳」にイメージするというものです。そこで、「楽しさ」や「苦しさ」という生(なま)の欲求や感情をコントロールするために、社会的な価値のあることを「媒介」に立てて、関係性に安定性と永続性をもたせようとする新たな「言葉」が「行動」に加えられます。
この場合は、「右脳」に言葉の意味のイメージが喚起されます。このイメージがドーパミンを分泌します。
「楽しさ」や「目先の利益の快感」は、後からついてくるという脳の働き方です。
事例にご紹介した女性(男性も)は、「恋愛」を「好きだ」「好きになった」「性をしたい」「彼とおつき合いしたい」といった言葉で成り立たせようとしています。これらの言葉は、女性や男性の生(なま)の感情や欲求とむすびついています。大脳辺縁系の中の中枢神経の「扁桃核」や「中隔核」「海馬」などのがつくる「楽しさ」や「目先の利益」とつながる言葉です。
『岩波国語辞典』などに載っている「恋愛」の言葉の意味とは全く無関係な言葉であることが特徴です。
こういう言葉を「恋愛」という行動を成り立たせるための「記号」としての言葉といいます。
ところが、このような「記号としての言葉」は、実際の関係の場面では「話せない」「言葉にならない」ということが起こります。会って「好きだ」「付き合いたい」「性をしたい」とばかりは言えないからです。この「記号としての言葉」だけで「行動」を成り立たせると、「言葉がない」という状態におちいります。「行動が止まる」のです。「行動が止まる」ということは、「右脳」に「負の行動のイメージ」が喚起します。「楽しくない」「自分にとっての不利益」というイメージです。「不安なイメージ」「緊張するイメージ」「恐怖のイメージ」が「右脳」に思い浮べられます。
この時の不安なイメージは、「大脳辺縁系」の中のいくつかの中枢神経が「記憶」している体験のイメージを想起します。「ひきつる」「笑顔が出てこない」「笑えない」という不安は、「母親から冷たい目で見られた」とか「父親に話しかけたのにソッポを向かれた」といった体験の記憶とむすびつけられます。こういうむすびつけられ方を「オペラント条件づけ」といいます。
「オペラント条件づけ」とは、目の前の人の行動によって自分の気持ちに不安が生じた時、この不安にもとづく「行動」をつくり出す、というむすびつき方が起こることをいいます。このときの記憶が「自分が悪い」という内容ならば、「自分は孤独で一人ぼっちだ」という不安になるでしょう。また、「相手が悪い」という「幼い甘えの気持ち」にもとづく不安の記憶ならば、「甘えさせてくれない相手への不信」という無気力と「抑うつ」の不安の体験の記憶を想起するのです。この場合は「父親不在」の中の体験の記憶にむすびついて、「人の目が気になる」「人から見られている」といった「うつ」や「痴呆」をともなう絶対的な孤立の不安を「右脳」にイメージするのです。
このような「不安」を「楽しさ」や「快感」によってうずめようとして「恋愛」の中の快感や楽しさのみを求めてさらに「行動」を成り立たせると、さらに狭い意味しかもたない記号としての言葉だけになり、これが消えてより深い「不安」や緊張のイメージの記憶を想起して「不安のイメージ」の連合や構成をおこなっていくことになるのです。
こういう脳の働き方を「無意識のイメージ」の「負の行動」の条件づけの法則というのです。 |