●「名古屋バスジャック事件」と「埼玉・川口の父親殺し」の事件について
みなさん、こんにちは。全日本カウンセラー協会・ポルソナーレの谷川うさ子です。
7月(平成20年)になって、中学生による二つの大きな事件が報道されました。
「名古屋のバスジャック事件」(中2の男子)と、埼玉県川口市で起きた中3の女子による「父親刺殺事件」です。「バスジャックの中2の男子」は、「父親」から「女の子との交際の仕方」についてつよく叱られたことをきっかけにして事件を起こしました。埼玉県川口市の「父親刺殺」の女子は、父親から「勉強しろ」と言われたことに反感があった、と話しています。寝室で寝ている父親の右胸を文化包丁で数回刺して、肺まで達したことによる出血性ショックで死亡したと報道されています。
■脳科学と脳の働き方の学とは全く違います
『日経kids+』(キッズプラス)(9月号)の広告があります。見出しは、「間違っていませんか?男の子の褒(ほ)め方、女の子の叱り方」です。内容を紹介するおもな小見出しは「叱りすぎると子どもはもっと叱られようとする?」「共感のない褒(ほ)め方が子どもをジコチュー(自己中心)に」「しかり役は父親が正しい理由」「最新脳科学が実証した褒(ほ)めの効用」などです。未見なので、書かれている内容についてコメントすることはできません。
しかし、ここでうかがわれることは、「脳科学」が実証する「子どもの褒(ほ)め方、叱り方」というものがある、というアピールです。「脳科学」とは、NHKテレビで活躍している茂木健一郎が語る「fMRI」などによる「血流測定」のことを指していると思われます。「叱る親は、母親よりも父親が適任である」と示唆しているように見えます。しかし、この7月に起きた「中学生」の男の子と女の子は、父親が叱ったことをきっかけにして報道されるような事件を起こしています。
『日経kids+』(9月号、キッズプラス)では、「fMRI」で脳の血流が測定される「有効な子どもの褒(ほ)め方」があるとアピールしているように見えます。じっさい、茂木健一郎は、『脳を活かす勉強法、奇跡の強化学習』(PHP研究所・刊)でそのように書いているからです。「人は、褒(ほ)めれば脳内の快感物質のドーパミンが分泌する」という説明です。
■今、脳科学は「エセ科学」になっている
「fMRI」とは「機能的磁気共鳴画像装置」のことです。小川誠二が、米ベル研究所で開発しました(1992年)。「考えを読むことができると誤解されている。それは違う。fMRIで分かるのは、脳で活発に動いている場所だけだ。また、人間の考えた時間と、fMRIが測定した時間との間には時間差が生じて、タイムラグが発生する」(小川誠二。平成19年12月9日、日経)。
「脳科学者」を自称する茂木健一郎らが多くの脳科学を語る根拠とは、このようなものです。「測定の数値は、その人間の考えを示すものではない」。これが結論です。
ロルフ・デーゲンは、『フロイト先生のウソ』(文春文庫)の中で、「fMRI」による測定についてこう書いています。
「世界の多くの脳の働きをfMRIで測定した学者の話では、fMRIで測定される脳の部位は、効率の悪い働き方をする部位を示すものだ。効率の良い働きを示す部位は、測定されることはない」。
「fMRI」で測定された脳の部位が、正常に働いている脳の機能と場所であるとする「実証」は間違いである、と書いています。
■「名古屋バスジャック事件」と「埼玉、川口市父親刺殺事件」の理解の仕方
「名古屋バスジャック事件」や「埼玉県川口市・父親殺害事件」は、「父親が叱った」ことがきっかけになっています。きっかけになっているとは、原因や動機ではないということです。
このことは、「脳科学」が「fMRI」をつかってどのように「実証」しても、叱るとか褒(ほ)めることによって、「父親を殺す」とか「父親を困らせてやろうと、世間を騒がすことをやる」ことは防げないことを意味しています。
「埼玉県川口市・父親刺殺事件」は、中学3年生の女子が引き起こした事件です。「勉強しろ」と言われたことが事件の「きっかけ」になっています。「勉強しろ」という言葉は、「勉強しなさい」という概念の命令形です。言い回しやニュアンスはどうかは分かりませんが、『意味』は、「努力して学業を治めよ」という内容です。殺害した中3の女子は、「勉強しろ」という概念を、辞典にも載っている『意味』のとおりに了解しなかったことになります。
ポルソナーレは、脳の働き方のメカニズムを研究して、有効な「脳の働かせ方」を開発しています。「脳科学」にとどまるものではありません。「脳の働き方」の中の「言葉」と「行動」のつくられ方を明らかにしています。脳の中には、物のように言葉や行動が詰まっているのではありません。「現実のものごと」と「人間の行動」とが「記憶」でむすびついていて、「行動が可能」なように「言葉」が「記憶」されています。「現実のものごと」を必要として「行動」が可能なとき、この「行動」と「現実のものごと」を、「非行動の状態」で「記憶する」というしくみで「言葉」が記憶されます。このように「脳の中にシステムとして記憶されている言葉」のことを『メタ言語』といいます。
■「脳の働き方」を正しく分かることが「子どもの親殺し」を防げる唯一の方法です
人間は、自分が「行動しないこと」についての「言葉」は、記憶しないのです。また、「行動」が何度もくりかえされたり、何年にもわたって「行動」されたことは、「現実のものごと」の記憶という仕方で、長期記憶として記憶されます。「言葉」を介在して記憶されない長期記憶は、「時間の経過」や「いつ、どこで、どのように」という因果関係(時間性としての意味)が曖昧になります。
これが『メタ言語』から見た「脳の働き方の言葉や行動」のしくみです。
「埼玉県川口市の父親殺害」の女の子の脳の中には、「メタ言語」からしか見られない「父親についての長期記憶があった」のです。
「勉強をしろ」という言葉は『対象言語』です。ここには、主語、述語、目的語、意味の脈絡など、誰も理解できる内容があります。「勉強をしろ」という言葉と「父親を刺殺する」という行動とは、因果としてむすびつきません。「勉強しろ」という言葉が「父親を殺す」という「行動」を成り立たせるのは、「メタ言語」から見た「脳の働き方の中の負の言葉」です。
■大人の「命じられたり指示されたことをやらない」という脳の働き方と共通しています
父親か母親が子どもに「勉強しなさい」ということについて、どのように褒(ほ)めても、叱っても、コミュニケーションとして伝わる『対象言語』を用いて表現するしかありません。人間の脳は、『記憶のソース・モニタリング』というメカニズムをとおして、『対象言語』とその『意味』を「右脳系」に表象(ひょうしょう)させます。「勉強しなさい」という言葉を耳で聞いて、すぐに「勉強する人」と「いやあ…」と生返事をしてノラノラと行動を回避する場合との二通りがあります。前者は、『記憶のソースモニタリング』が成立するケースです。後者は、不成立です。「埼玉県川口市父親刺殺事件」の中3の女子は、後者のケースの脳の働き方をしています。
「父親を殺す」という行動にむすびつくほどの「負の行動の記憶ソースモニタリング」をおこなったのです。
「父親」が子どもに「勉強しろ」と言って、これが「はい、わかりました。がんばるね」と受け容れられる子どもは、どういう脳の働き方を身につけていることで可能になるのでしょうか。それは、ボールビーによれば「0歳3ヵ月」から「1歳半」にかけての乳児の時期に、「母親との愛着」が土台になるのです。「母親との愛着」が安定している乳児の「脳の働き方のメカニズム」は、「勉強をしろ」という『対象言語』の『意味』を記憶するメカニズムを完成しています。
「不安定な愛着」を記憶している子どもは、「勉強しろ」という言葉の『意味』を記憶できないのです。学校に行っても「試験」のために「丸暗記」の行動をおこなうだけです。『意味』に孤立して「うつ病」に陥っています。
■「埼玉・川口市の父親殺し」は「うつ病のうつ破り」、「名古屋のバスジャック事件」は「分裂病」が原因です
「父親」が「勉強しろ」と言えば、日本人の距離のない対人意識は「心拍を低下」させます。この事件は、「両親が勉強しろ」と言った、と報じられています。母親も言った、ということです。母親が喜んでいた、だから「丸暗記の勉強をしていた」。しかし、遠い位置に居るはずの「父親の位置」まで「母親」が遠ざかった。これが「うつ破り」となって、安心を享受していた対象の母親による安心の回復のために父親を刺殺したのでした。
「名古屋バスジャック事件」は、父親が「女の子との恋愛」について叱っています。この中2の男の子は、女の子との交際をお金で実現しようとしていました。『ブラックダリア事件』や『宮崎勤事件』『仙台幼女100人レイプ犯』と同じように、「母親不在」による分裂病の「美化の妄想」を実現することが、ゆいいつ「学校」に行き、学業をつづける脳の働き方になっていたと思われます。 |