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カウンセラー養成ゼミ NEWSLETTER 第232号
11期21回め平成21年12月12日

ハーバード流交渉術・脳の働き方と言語の学習回路
浅見鉄男「井穴刺絡・免疫療法」

脳の働き方・言葉の生成のメカニズム
言語の生成・XI
日本語の文法の解体学・III
『言語にとって美とはなにか』2(吉本隆明)
認識という知性のための文法・表現力

はじめに

 カウンセラー養成ゼミ、中級クラス、スーパーバイザーカウンセラー・認定コース、№47のゼミをお届けします。
 日本語の文法の解体学のパートⅢをお届けします。今回のテーマは「認識の歪みをつくる日本語(やまとことば)」です。「認識の歪み」とは、その歪みを根拠にして行動が止まる、という支障や障害を生成します。その典型が、11年間連続でつづいている「年間3万人以上の自殺」です。
 あるいは、さまざまな理由による社会的入院や仕事の休職です。そして「失業状態」です。
 世界の経済社会は、金融システムのバブルが収縮してのち、新たな社会的価値の創出を必要としています。本ゼミは、「認識力」こそがその土台であることを示します。

ポルソナーレ代表田原克拓

本号の目次

  1. 「認識」とは何か
  2. 動物一般と人間との区別の仕方
  3. 赤ちゃんは、対象の像を表象している
  4. 人間は「イメージ思考」をする
  5. 新生児、乳児は「認識」を拡大している
  6. 「人見知り」の心的なメカニズム
  7. 乳児の脳が生成するメタ言語の「文法」のメカニズム
  8. 乳児が「有節音声」を発するまでのメタ言語の段階
  9. 乳児の脳と「発声」のしくみ
  10. 『言語にとって美とはなにか』の読み方
  11. 「自己表出性」とは「長期行動」の認識の表象(イメージ)のことです
  12. 「自己を対象化する能力」とは「イメージ」の身体との一義性のことです
  13. 日本語(和語)はこうして「認識」を歪める

脳の働き方・言葉の生成のメカニズム 言語の生成・XI
日本語の文法の解体学・III
『言語にとって美とは何か』2 (吉本隆明・勁草書房よりリライト・再構成)
認識という知性のための文法・表現力

「認識」とは何か

 吉本隆明が書いた『言語にとって美とはなにか』(勁草書房・昭和40年刊)に、この本の最も核心点をなす「人間の認識」について、次のようにのべています。要約して要旨をご紹介します。

① 原初の人間は、食糧を手に入れるとか、食糧の確保などを協調するなどの行動のくりかえしの中で、身体の器官や機能が、生理的な次元で発達した。
この生理的身体の発達とは、現代では解剖学やレントゲン、fMRIなどの機械をとおしたり、あるいは、じかに目で見たり、手で確かめることができるので、「物理」というカテゴリーの概念で認識されるものである。

② 一方、原初の人間は、人間的な意識の次元の発達もおこなった。
「意識の自己表出性」の発達のことだ。発達とは「自己を対象化することができる」という能力の発達のことだ。
それは、どういう発達の内容かというと、「現実的な対象にたいする反射」がないのに「自発的に有節音声を発することができる」「このことによって、逆に対象の像を指示することができる」、というものだ。このようにして、「有節音声」は「言語」としての条件を全て具えるにいたった。

動物一般と人間との区別の仕方

■人間がものごとを「認識する」ということは、「対象の像を指示する」ということをいいます。「像」とは、右脳系の前頭葉に思い浮ぶイメージのことです。前頭葉とは、パソコンや携帯電話などのディスプレー(画面)と同じような、記憶の再現のことです。

 問題は、動物一般と比べて、なぜ人間だけが「イメージ」(形象性の像)を思い浮べることができるのか?にあります。厳密にいえば、犬、猫、トリ、ハチなどの動物一般も「イメージ」を喚起していることには違いありません。

 ハトの「オペラント条件づけの反射」や「パブロフの条件反射」などの実験を考えれば、動物一般も「イメージの喚起」をおこなっていることが得心されます。

 では、動物一般も、人間と同じように「観念」をもつのか?というと、そういうことはありません。もともと、動物一般と人間とは、脳の構成が違っているからです。

 人間の脳は、大脳新皮質、大脳辺縁系、脳幹の三層で構成されています。動物一般は、大脳辺縁系と脳幹の二層です。魚は、脳幹だけの一層です。

 すると、『言語にとって美とはなにか』でのべられている「自己表出性」とは、動物一般と人間が共通にもつ「大脳辺縁系」の中のいくつかの中枢神経の記憶の「再現」であることが分かります。なぜかというと、動物一般と人間の共通するところは、「有節音声が無い段階が想定される」ということだからです。「あるところまで意識は、強い構造をもつようになったとき、現実的な対象にたいする反射なしに、自発的に有節音声を発することができるようになった」(『言語にとって美とはなにか』)という説明が、人間には、有節音声が無い状態がある、ということの説明になります。

 「有節音声」とは「a,i,u,e,o」の母音(ぼいん)と「p,t,b,d」の子音のことです。人間に「有節音声」の無い段階は、新生児、乳児(一歳半くらいまでの月齢期)が該当します。

 では、動物一般と、人間の乳児の脳の働き方は同じなのか?と考えると、そういうことはありません。

赤ちゃんは、対象の像を表象している

 無藤隆は、『赤ん坊から見た世界』(講談社現代新書)で、次のように書いています。

?0歳8ヵ月くらいの乳児の目の前に、魅力的なおもちゃ(鍵・カギのような平たいもの)を、手の届きそうな所に置く。
乳児は、手を伸ばして取ろうとする。そこで、おもちゃに布のカバーをかける。すると、乳児は、おもちゃが無くなったかのように、おもちゃに手を伸ばして取ろうとはしない。しかし、カバーを取っておもちゃを見せると、再び取ろうとする。これを見るかぎり、乳児は、「物は、見えない間は存在しない」と思っているようだ。

?乳児のこの現象についてスイスの発達心理学者ピアジェは、こうのべる。

  1. 生後数ヵ月(0歳6ヵ月から0歳8ヵ月)は、興味のある対象が消えると、じっと見ている動作をそのまま持続する。最後に見た場所をじっと見る動作をつづける。
  2. 0歳8ヵ月から1歳になると、物をカバーで隠すと、そのカバーを取り除いて、欲しい物を取る。
  3. 1歳を過ぎると、目の前のA点で物を隠し、さらに目の前で物をB点に移してカバーをかけて隠すと、A点のみをじっと見て、A点のカバーを取って探す。
  4. 1歳半ごろになると、A点からB点に移動して隠しても、B点のカバーを取り除いて探す。
    この段階で、乳児は、「物の置き換え」「自分の行為とは無関係に物は存在する」「自分と他者と共通の場所に実在する、という対象の永続性」を認識する。
人間は「イメージ思考」をする

■無藤隆は、ピアジェのこの観察に異議をとなえます。

 「ものを認識する」ことと「ものを探す」ということは、全く別のことで、両者は区別されなければならない」というようにです。

 そこで、アメリカのコーネル大学の「スペルケ」らの研究グループの実験を紹介します。0歳4ヵ月の乳児が対象です。

 それは「注視率」のデータを取るというものです。「物を隠す」というテーマで「注視率」を測定した結果、「物は、隠されても存在しつづけることを認識する」「物は、動くこと、そして、動きには方向性があることを認識する」などを実証します。

 そして、無藤隆は、アメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校のマンドラー、ミネソタ大学のバウアー、アメリカの認知言語心理学者のレイコフらの実験や観察をとおして、0歳4ヵ月の乳児は、「イメージ思考」をおこなうことを説明します。

 乳児がメロディタイプの「有節音声」を自発的に発しはじめるのは、0歳3ヵ月から0歳4ヵ月くらいにかけてである、と正高信男(京都大学教授)とのべています。

新生児、乳児は「認識」を拡大している

 さらに、岡本夏木(おかもとなつき・京都女子大学教授・発達心理学)は、『子どもとことば』(岩波新書)の中で、次のようにのべています。

?新生児には、「慣れ」(馴化・じゅんか)という行動傾向がある。ある音をくりかえし聞かせる、ある図形を何回も見せると、だんだん関心を示さなくなるというものだ。「慣化現象」ともいう。この時に、新しい図形などを見せると、「注視時間」が長くなる。
「慣化現象」とは、ちらっとしか見なくなるという現象のことだ。

?0歳5ヵ月から0歳6ヵ月になると「人見知り現象」が生じる。乳児は、「同じものには飽きやすい」「新しいものには惹かれやすい」という特性をもつ。しかし、人間にかんしては、「母親」という見慣れたものを選び、見知らぬ人には不安を抱く、という傾向を示す。

?乳児は、「随伴関係の探知」(バウアーによる観察)をおこなう。足でベッドの柵をたまたま蹴ったとき、横のテーブルの形が揺れるのを見ると、くりかえし、蹴ろうとするというものだ。自分の活動に随伴して何が起こるのか?を探ろうとする動機をもつ、というのが「随伴関係の探知」だ。

?乳児は、身体にいろいろの「感覚経路」をもつ。視覚、聴覚、触覚、味覚、温度感覚、嗅覚、そして、平衡感覚、自己受容感覚、および、種々の内部感覚だ。
これらを通して無数の刺激を受け取る。このことは、乳児にとって、「ある物」が、一度に一つの感覚経路をとおしてだけしか自分に働きかけてこないという場合は「不安」に陥るということだ。
実験がある。
窓ごしに、じっと動かないで、ポーカーフェイスのままで黙っている母親の顔だけを見せると、乳児はけげんな顔をしたり、一種のパニックに陥るということも珍しくない。声もかけず、にこりともしない母親というのは、乳児の記憶している認識から外れるのだ

「人見知り」の心的なメカニズム

?乳児の「人見知り」の問題に一定の考察を加えたのは、イギリスの「バウアー」(ミネソタ大学の教授として、乳児の「カテゴリー認識」を発表した)だ。

乳児は、母親とコミュニケーションのコードを共有している。
「喜び合い、通じ合う」ことのシグナルがコミュニケーション・コードだ。

大人のケースでこの問題をとらえてみる。
例えば、電車の中で見知らぬ人が自分と関係なしに少し離れている場合は不安を感じない。しかし、その人が、自分に関心を示して、自分に了解不能なメッセージを次々に送りながら近づいてくると、緊張するか、不安を感じるだろう。

だが、その人が「失礼ですが、少しよろしいでしょうか?」と言葉をかけて近づいてくると、「不安」は起きない。

乳児の場合も、1歳半くらいから、誰にも広く通用する「ことば」というコミュニケーション・コードが使われると「人見知り」は急速に減っていく。

母と子のこの安心のコミュニケーション・コードを「愛着」というカテゴリー概念でとらえたのはボールビー(イギリスの精神医学者)である。ボールビーは、「愛着」を「親と子の間の関係は一つのシステムを形成している。そのシステム内では、パートナーが近くにいることを維持し、また必要に応じて接近するという関係のことだ」とのべる。「愛着」とは「個人間の親密で情緒的な絆(きずな)をもとにして成立する対人関係のことだ」とする。

アメリカの女性の発達心理学者エインズワースは、「愛着」の理解を発展させた。
「ストレンジ・シチュエーション」という測定法を発明した。
「愛着が安定しているか、不安定か?」を測定するものだ。

エインズワースによれば、「人見知り」は「愛着」の裏返しである。「10人の乳児のうち、2人か3人」は、あまり人見知りをしない。人見知りをする乳児は「保育園に置いておかれる」といったストレスの高さの影響が考えられる。

「人見知り」とは、乳児にとっては「自分の了解不能なシグナルを出しながら迫ってくる人」であり「こちらから出しているシグナルにちぐはぐな応え方しかしない人だ」ということだ。これが乳児に大きい不安や当惑をもたらす。乳児にとって「見知らぬ人」とは、その人が出すシグナルの意味が分からない人ということになる。

乳児の脳が生成するメタ言語の「文法」のメカニズム

?乳児は、現実の中からやってくる知覚的な刺激の総体から、視覚、聴覚、嗅覚などの各知覚ごとのシグナルやインデックスをより分けてとらえる。
この中で、それぞれの信号間どうしの関係を認識していく。見るだけで人を認知したり、声だけを頼りに人を見定めるということができるようになっていく。これを「記号関係の成立」とか「記号の代表性」という。
言語行動(まず初めは言語理解)は、この「記号関係の成立」の中に「母親による言葉がけ」が含まれることをいう。

?乳児(1歳半から2歳近くの月齢児)は、どのように言葉を獲得していくのか。言葉以前は「行動」が「言葉」の「意味」に相当する秩序を構成する。
絵本作家のディック・ブルーナーは、こう説明する。

  1. 乳児の言葉の獲得以前には、「遊び」という行動がある。
  2. 例は「ボール転がし遊び」だ。「ボール」を転がしてやり取りをする遊びがモデルになる。
  3. ボールを転がす遊びでは、「ボールを転がす役」と「ボールを受け取る役」があることが分かる。ボールを転がす役と受け取る役とを交換することが分かる。
  4. この役の交替では「自分の番」「相手の番」という「協約」が分かる。
  5. この「協約」には「協約のシグナル」がある。ボールを受け取ると相手がにこっとする、ボールを転がして相手が受け取ると相手に向けて自分がにこっとする、というものだ。この「協約」の中に「ゲームの開始、終了、継続、感情の交流」などのシグナルがあらわされる。
  6. この「行動の協約のシグナルの脈絡」は「文章の構文」に相当する。
    AガBヲCニDスル(行動の協約のシグナルが表現する「行動の脈絡・プロット」のモデル)。
    この「行動の文脈」(プロット)は、こんなふうにとらえられる。
    Bには「ボール」が入る。
    AとCには「自分」と「相手」が交互に交替して入る。
    Dは「動作」である。
    動作の主体A、動作のほどこされる対象B、動作のさし向けられる相手Cには、一つの「行動文脈」をつくる。「協約のシグナル」を規則として具体的な現実の事柄が組み入れられる。このABCDの記号の中に、状況に応じてさまざまなものが取り入れられる。
    これが、乳児の「言葉」の獲得のベースになるものだ。
    すなわち「言葉の構文」(文法)の規則の原型になる。
乳児が「有節音声」を発するまでのメタ言語の段階

?ちなみに、乳児の言葉を獲得するまでの観察されたモデルケースとは、次のようなものである。

0歳8ヵ月…冷蔵庫のとびらを開けたり閉めさせたりさせると、以後、そこに行きたがる。
自分で、とびらの開け閉めをくりかえす。
0歳9ヵ月…子どもの冷蔵庫のとびらの開け閉めに、母親が「いけません」と言うと、その言葉を喜ぶ。言われると、とびらを開け閉めする。
0歳10ヵ月…家の中の他者(母親以外の人)に近づいて「あーあ」という声を発する。
0歳11ヵ月…「いないいない、ばー」をしてやると、模倣できる。
いろいろな物を見つめて、さかんに反復の喃語(なんご)を発して「ひとりごと」を言う。
0歳12ヵ月…母親が「わんわんは?」と問うとおもちゃの鹿を指さす。
0歳14ヵ月…いろいろの物を指でさし示して、長々と反復の喃語を発して「ひとりごと」を言う。
0歳16ヵ月…テレビを指さして「ふわふわ」と言い、これを見ている人に向かって「ふわふわ」と数回くりかえす。
0歳17ヵ月…熱帯魚を見て「およおよ」と言い、母親の方をふりかえって「およおよ」と言う。
0歳18ヵ月…絵本の中の「きりん」の絵を自分の指でおさえる。次に、母親の指を持って同じ絵をおさえさせ、「こっこ、こっこ」と言う。
母親が「きりん」と言うと喜ぶ。同じ行動をくりかえす。なんども母親に「きりん」と言わせる。

乳児の脳と「発声」のしくみ

■この乳児の「発語」に至るまでの「発声」の「音素」のあらわれ方について、前回の本ゼミでは「ヤコブスン」と「ハレ」(一九五六年)の研究を『脳のしくみとはたらき』(クリスティーヌ・テンプル、講談社BLUE BACKS)からご紹介しました。

?構音素は、言葉を話す筋系の運動を制御している。
口と喉(のど)の構音の部位は「口唇、口腔」「歯槽縁」「声門」などである。
これによって「母音」「子音」(閉鎖音、口唇音、歯槽音、有声音)がつくられる。

?脳に関連する言語系は、三つの広い領域に分けられる。
構文系…言葉の文法に関係する。
語義(意味)系…個々の単語の意味に関与する。
音韻系…発声につけるイントネーション(抑揚)を変化させて、メッセージの意味を変化させる。

?脳の言語の産生に関係する作用は、脳の前寄りの方(ブローカー言語野)に位置して、言語の受容と理解に関する作用は、後頭葉の聴覚野、視覚野(Y経路…V3(形)、V5(方向、運動、角度)。X経路…V2(形)、V4(色彩))に位置している。

?言語の音声系は、音素(phoneme[founi:m])と呼ばれる最少の単位の素質である。
すべての言語の音素は「二者択一的な二要素の特徴対比」で成り立っている。区別的特徴というものだ。脳の神経系がこれをつくり出す。

?「子音」を例にとればこうなる。まず、肺から押し出される空気は、「声路の閉鎖」が開放されて「声帯」が早期か、遅れてかのどちらかで振動する。

?子音のbとpでは、発声のタイミングが違う。
音声をコンピューターで人工的に合成すると、その違いが明瞭になる。

?この「ヤコブスン」と「ハレ」の研究を引きついだのは「リスカー」と「エイブラムスン」
(1970)だ。

?「bとpの音が発声される時の、bとpの中間のレベルでは何が知覚されるか?」を研究した。
この結果は、「声音開始はbのマイナス0・15秒から、pのプラス0・15秒まで、0・01秒きざみで変わる」「bとpの音の中間では何の音もない」「いったんbの音が中止して、劇的にpの音に変わる」というものだ。
この「bとpの境界」は、「20分の1秒」の幅で生じる。

?このような一つの音韻ともう一つの音韻の中間の境界は「母音」でも生じる。しかし「母音」の場合は、「子音」の場合ほどには鋭くなくゆるやかである。

?このような実験をとおして分かることは、人間の脳は、音声を「一つの音素カテゴリー」と「もう一つのカテゴリー」に類型化するメカニズムをもっていることを明らかにするものだ。このことは、人間の聴覚系のメカニズムは、言語をたんに一連の聴性入力の流れとして知覚しているのではなくて、聞こえる音素ごとの「信号」(記号)について、独自の解釈を求めているということだ。

『言語にとって美とはなにか』の読み方

■『言語にとって美とはなにか』で吉本隆明が書いている「意識の自己表出の発達にともなう自己を対象化しうる能力の発達」から「あるところまで、意識は強い構造をもつようになったとき、現実的な対象にたいする反射なしに、自発的に有節音声を発することができるようになった」「これによって、逆に対象の像を指示できるようになる」という説明の内容を、新生児、乳児、そして「脳の発声のメカニズム」をとおして、実証的な裏付けをご紹介しました。

 ここでご紹介した実験や観察の内容は、「大脳新皮質」でおこなわれています。

 ここが、動物一般と違うところです。動物一般には大脳新皮質はなく、大脳辺縁系のみで「イメージ」が表象されます。しかし、この「イメージ」は大脳辺縁系の扁桃核(好き・嫌い、敵・味方)や「視床下部」の「食べたい・食べたくない」「性をしたい・したくない」などの中枢神経の記憶の表象(ひょうしょう)です。「短期行動」の知覚の表象です。

 「オペラント条件づけによる条件反射のイメージ」が表象されます。

 もちろん、人間にも「大脳辺縁系」はあります。したがって、人間の場合も、動物一般と同じように「オペラント条件づけ」によるイメージの表象がおこなわれるのです。しかし、乳児の事例を見ても分かるように、人間の場合は、「大脳辺縁系」や「視床下部」に記憶される知覚の体験だけが表象されるのではありません。それは大脳新皮質が「右脳」と「左脳」とに分かれていることが理由になります。

◎「右脳」…認知とその表象をつかさどる
◎「左脳」…認識とその表象をつかさどる

 この「認知」と「認識」とは何のことかというと「長期行動」ということです。

 「短期行動」は、大脳辺縁系の中枢神経が生理的身体の欲求の動機の充足を認知するとイメージの表象を終了します。

 しかし、「長期行動」は、生理的身体の欲求の充足とは必ずしも一直線に結びつくものとは限らないので、「イメージの表象」が終了することはありません。イメージの表象は自律神経の「恒常性」のメカニズムによって、原則として一生継続します。それは、心臓の拍動の動きや血管、呼吸器系などに象徴される自律神経の「恒常性」(ホメオスタシス)として、これが脳でもおこなわれます。それは、基本的にはA6神経やA10神経によっておこなわれるでしょう。

「自己表出性」とは「長期行動」の認識の表象(イメージ)のことです

 人間の「長期行動」のためのイメージは、聴覚と視覚が、共時的に記憶します。
 それは、「Y経路」と「X経路」の認知がベースになるでしょう。

右脳系の耳と目のY経路…
① ゲシュタルト認知をおこなう。
② 二・五次元の認知をおこなう。
③ 物の動きのパターン、物の動きの速度を認知する。
④ ものごとの発生を認知する。

◎右脳系の耳と目のX経路…
① 物の色、光、影を認知する。
② こまかい点や線、形象のいりくみを認知する。
③ ものごとに焦点を合わせて、認知を確定する。
④ ものごとの終了を認知する。

 この右脳系の「Y経路」と「X経路」の認知のイメージは、右脳系の前頭葉に恒常的に表象されつづけます。

 大人が、夢を見るとか道路を歩いている時にでも、必ず、何かのイメージが頭の中に思い浮びつづける、というのが恒常性による表象です。

 この恒常的に思い浮びつづけるイメージの表象は、「新生児」にも「乳児」にも、「乳・幼児」においても同じです。

 本ゼミでは、アメリカ・カーネギーメロン大学のジョンソンと、イギリス・MRC認知発達部門のモートンによる「新生児の注視率」の実験をご紹介しています。生まれて一ヵ月めの赤ちゃんに、人間の顔の人形をいくつか見せるというものです。「目と鼻と口がある」「目と口はあるが、四角の形のもの」「四角の目を口のあたりに並べて、口を目の位置に置く」といった人形です。

 注視率を測定すると「統計学的に意味のある有意性のある結果」が測定されています。この実験によって「新生児」は「母親の顔」を「認識する」という結論が得られています。

 このような「認識」をおこなうのが「左脳系のY経路とX経路」です。

 京都女子大学の岡本夏木(おかもとなつき)は、このような認識の仕方を「記号関係の成立」もしくは「記号の代表性」と定義しています。

 『言語にとって美とはなにか』(昭和40年刊)でいわれている自己表出性とは、「右脳系のY経路とX経路のイメージの表象である」ことがお分りでしょう。

「自己を対象化する能力」とは「イメージ」の身体との一義性のことです

 「自己を対象化しうる能力」とは、「右脳系のイメージの表象」が恒常的につづくと、これに「記号関係の成立」(記号の代表性)という認識の記憶が加わることをいいます。思い浮びつづけるイメージは、「今、げんにじぶんが見ている現実のもの」ではなく、長期記憶として常に思い浮びつづけるイメージです。このイメージを「心的な目」で見るということがおこなわれます。「心的な目」といってもかくべつ難しいものではありません。

 「私は愛されている」とか「私はあの方の戦友だわ」といったふうに、一人の時にじっと思い浮べるイメージを「見る」というのが「心的に見る」ということです。そのときにあたかも、実物の「あの方」を見ているような実感がともなうときの目が「心的な目」です。このときのイメージは現実と一直線に結びついていない、という意味で「自分の手や足、指、お腹を見る」こととなんら変わりのない自己、ということができるでしょう。身体と表象されているイメージとの違いは、直接、手で触れるか触れないかの違いだけです。人間は、自分の背中や内臓をじかに触ることはできません。ただ、感覚的に知覚して、「そのものがそこにある」ことを分かるだけです。この「そのものがそこにあるということを感覚的に分かる」というように「表象されているイメージ」は「自己」として対象的にとらえられて、関係づけられます。

 「対象の像を指示できるようになる」(『言語にとって美とはなにか』)というのは、岡本夏木の紹介する「バウアー」による「乳児の人見知り」の例で正しく理解できるでしょう。「コミュニケーション・コードで了解し合っている母親の像」と「不一致の見知らぬ人」が「不安の対象」として「指示」されているというのが「人見知り」です。

日本語(和語)はこうして「認識」を歪める

 ここで『言語にとって美とはなにか』の中の数行をケースにとりあげたのは、日本語(和語)のもつ文法が、表象している右脳系のイメージを「認識する」というときにいびつに歪めたバイアスのイメージを「左脳系の前頭葉」に表象させているということを確かめるためです。吉本隆明の書いた『言語にとって美とはなにか』の、ご紹介している数行が正しく理解されていれば、日本語の「認識のバイアス」はしりぞけることが可能になります。

 具体例は次のとおりです。

◎「言語にとって美とはなにか」の示す対象の像の「上」…ものごとの空間的な位置関係。比較の基準がある。三次元の空間で、比較の基準よりも高度が上位にあること。

◎日本語(和語)の示す「上」…「えらい人」。「身分の高い人」「尊敬すべき人」「恐い人」「おそれおおいので尊敬してうやまうべきもの」

 岡本夏木は、ディック・ブルーナー(絵本作家)の、「行動が言葉の構文(文法)の基本型になる」という仮説を紹介しています。

◎AガBヲCニDスル。

 ここではABCは「三者関係」「三項関係」であるといわれています。対等なコミュニケーションの関係のことです。日本語は、A=他者、B=自己、C=遠い、D=恐がらせる、という文法型をつくっています。日本人の日本語の「認識のバイアス」とはこのようにして生成されているのです

カウンセラー養成ゼミ NEWSLETTER 第232号 一部掲載

関連
「年金激震!」・2 「言語にとって美とはなにか」2


連載
前回:日本語の文法の解体学・II 『言語にとって美とはなにか』
次回:日本語の文法の解体学・IV 『言語にとって美とはなにか』3 「負けない行動」の表現力(桜井章一)

参考:脳の働き方の学習のご案内

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人間は、誰でも「気持ちが安心」しないと正しく「ものごと」を考えられません。

「脳を最大限に発達させる」が教育の狙いと目的です。「指示性のカウンセリング」とは、 「一緒に考える」「共感し合って共に問題を解決する」カウンセリング術です。ものごとには「原因」(脳の働き方)があるから「結果」(心身のトラブル)があります。

「脳の健康を向上させる」、が教育のテーマと目標です。「指示性のカウンセリング」は、「考えたことを実行し、考えないことは実行しない」 という人間の本質を、最後まで励まし、勇気づけるカウンセリング術です。

脳の働きがつくる「人格=パーソナリティ」を育てる!が教育の方針です。
「指示性のカウンセリング」は社会性の世界(学校・仕事・社会の規範・人間関係のルール・合理的な思考)と正しく関わる!を一緒に考えつづけるカウンセリング術です。

ストレスに強い、元気に働く「脳」に成長させる!!が教育の魅力です。
「指示性のカウンセリング」は五官覚(耳、目、手、足、鼻)を正しく発達させて、言語の能力も最高に発達させるカウンセリング術です。


脳と行動の診断

「心の病いの診断学」が楽しく身につきます。

心の病いの予防と解消の仕方の「人間の理解学」が身につきます。

心の病いに気づける「人間への愛情学」が驚くほど身につきます。

「交渉術」の知性と対話の能力が目ざましく進化しつづけます。

相手の心の病理が分かって、正しく改善できるので心から喜ばれます。「心の診断術」

病気になるということ、病気が治るということが正しく分かる、最高峰の知性が身につきます。


よくある質問

朝、起きると無気力。仕事にヤル気が出ません。うつ病でしょうか?

仕事に行こうとおもうと、緊張して、どうしても行けません。治りますか?
バックナンバーの一部を9期後半分より、随時掲載していきます。
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ポルソナーレのゼミの様子をYouTubeに公開しました。

脳を発達させる日本語トレーニングペーパー 谷川うさ子王国物語

一部公開しました。
トップページ NEW! 年間カリキュラム 学習の感想と学習成果 「日本人の思考」と「谷川うさ子王国物語」と「グローバル化の恐怖」
学習内容(サンプル) 「言葉」 日本語の影響。その仕組みと感情、距離感、人間関係について
「脳を発達させる日本語トレーニング・ペーパー」の役立て方の資料
『分裂病の自己診断表と自己診断』
男性に嫌われない女性の話し方
女性に嫌われない男性のしゃべり方
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ポルソナーレのマスターカウンセリング

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《クマ江版・おそろし》
スクールカーストと
脳の働き方 百物語
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受講生の皆様へ 平成25年冬版 ポルソナーレからの真実の愛のメッセージ
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