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カウンセラー養成ゼミ NEWSLETTER 第231号
11期20回め平成21年11月28日

ハーバード流交渉術・脳の働き方と言語の学習回路
浅見鉄男「井穴刺絡・免疫療法」

脳の働き方・言葉の生成のメカニズム
言語の生成・X
日本語の文法の解体学・II
『言語にとって美とはなにか』(吉本隆明)
最強の知性のための文法・表現力

はじめに

 カウンセラー養成ゼミ、中級クラス、スーパーバイザーカウンセラー・認定コース、№46のゼミをお届けします。
 「日本語の文法」に焦点をあてて、日本語の文法が生成する病理の解体のパートⅡをお届けします。問題の設定はシンプルです。「人間は、自分が考えたことを実行し、考えないことは実行しない」「人間の行動には言葉が必要である」の二つです。
 今、日本を含めて全世界の経済社会は「デフレ型の不況」に直面しています。
 しかし、世界の中でも「日本の経済社会の不況」だけが特異的です。製造業を含め、「実体経済」に不況構造が及んでいることが、特異的です。そこで、その根本からの打開策もご一緒に考えます。

ポルソナーレ代表田原克拓

本号の目次

  1. 人間の「言葉の文法」の原点は、母と子のコミュニケーションです
  2. 「胎児」は人類40億年の進化を通過する
  3. 胎児は「聴覚」が発達する理由
  4. 「新生児」のコミュニケーションの能力
  5. 「0歳6ヵ月児」は「縄文時代の日本人」に相当する
  6. 「表象」と「表現」はどう違うのか?
  7. 「構造的写像性」と「構造的非写像性」の言葉
  8. 日本語(和語)は、外来語である
  9. 原日本語の四つの母音の上に成り立った日本語の「文法」のメカニズム

脳の働き方・言葉の生成のメカニズム 言語の生成・X
日本語の文法の解体学・II
『言語にとって美とは何か』(吉本隆明・勁草書房よりリライト・再構成)
最強の知性のための文法・表現力

「日本型の分裂病」の原型は、「ブローカー失語症」と「ウェルニッケ失語症」です

 「日本型の分裂病」の第一期の症状は、「離人症」、「強迫観念」、「マイナス(負)行動」、「パラノイアの言葉・行動」「躁うつ病のヒステリー症状」「心気症」の六つに区分されます。

 日本型の分裂病は、同じ症状にとどまらずに進行して変遷していくと精神科医の村上仁(ひとし・昭和24年発表による)は、臨床観察しています。

 第二期の症状とは、次のようなものです。「作為症状」(過食と拒食、パニック、震える、など)、「作為性の思考」(バーナム効果のとおりに行動する、など)、「作為性の行動」(自律神経の症状で行動が止まる、など)、「作為性の幻聴」(他者の言葉が恒常的に表象する、など)、「影響感情」(親しい人と話すと顔がこわばり呼吸が苦しくなる、など)、「憑依妄想」(人は自分に不快感情をもつ、など)。

 これらの症状には、「離人症」が共通していて、「離人症」が消失することはない、とされています。

 なぜ「日本型の分裂病」かというと、E・クレペリンの精神分裂病の定義では「社会参加」ができなくなり、人格崩壊に至る痴呆が「第一期」の症状であるからです。欧米では、社会と不適応状態の痴呆症状が基本型です。

 この痴呆症状をとらえてE・ブロイラーは、「精神分裂病」とは、「弛緩(しかん・五官覚の知覚機能が正常に働かず、ゆるみ、たるむこと)」、「自分から求めての自閉(じへい・空想、連想のイメージ表象を求めて、安住すること)」、「離人症」(りじんしょう・他者の言葉、書かれた文章、仕事などの現実の対象との関わりが表面的となり、これらの対象の「認識」が不適合であること)と定義しています。

脱・日本型の分裂病の事例

 これらの定義と比較すると、「日本型の分裂病」は、「仕事には参加している」(仕事との関わりの行動は成立している)、「学校の授業には参加している」(出席はできている)などというように「社会との適応」の行動は成り立っています。これらの行動の中で「第一期」「第二期」の症状があらわれています。「日本型の分裂病」の「症状」は、「第二期」から「第三期」に進行するときに「言葉」との不適合をあらわして「行動が止まる」というように「弛緩」と「自閉」を進行させます。

 なぜ、このような「表面的な社会適応」と「不適合が生じたときに行動が止まるという不適応」が生じるのでしょうか。

 平成21年11月23日付けの日本経済新聞に「企業、強さの条件」という取材記事の連載が書かれています。具体的な事例としてご一緒に考えてみます。

ケース・1
 札幌市。食品スーパー「ビッグハウスエクストラ」。運営者は「アークス」。
 社長は横山清(74歳)。
 「モヤシ1袋19円」。「6枚入り食パン75円」。競合店がすぐに追随できない価格に引き下げて年間売上げ高は50億円。
 国内スーパーの単一店でトップ級に成長した。
 惣菜の容器をポリ袋にして電気代もギリギリまで削る。
 この結果、「売上高経常利益は7%」(業界平均の2倍以上)だ。
 「所得が低下しても十分な生活ができる価格がテーマだ」(横山清社長)、「値下げ余力はまだある」(店長の大阪光克・52歳)。

ケース・2
 「イオン」「セブン&アイ・ホールディングス」など大手が苦戦する中で「地方小売り」の伸びが目立つ。「東北が地盤のユニバース」、「東海・北陸のバロー」は、「半数以上が増収増益」だ。
 鹿児島阿久根市の「A‐Zスーパーセンター」(東京ドームの3・7個分の広さの店)を経営する「マキオ」(社長は牧尾英二。68歳)。平成10年2月期に、30%近い増収の見通し。
 「消費が多様化すれば、品ぞろえ、値決めで小回りがきく地方企業が強い」(牧尾英二の話)。

ケース・3
 首都圏地盤の「食品スーパー・オーケー」(東京・大田。社長・飯田勤、81歳)。
 「価格交渉を進めやすい2位以下の企業の商品を中心に大量調達する」「毎日安く売るからチラシの配布、特売スペース設置のコストもかからない」。
 「今年の秋、アメリカ・ウォルマート・ストアズ」(年間売上高が40兆円)の訪問を受けた。
 「これほど支持される理由は何ですか?」(訪問幹部の言葉)。

ケース・4
 北海道の地方企業から「家具の最大手」になった「ニトリ」(社長・似鳥昭雄・65歳)。
 「26カ国に展開するスウェーデン・イケア」の価格に並ぶ。「2人掛けソファ」は「イケアの2万800円」に対して「ニトリの製品は2万9900円」。両社はさらに激しい値下げ合戦をくりひろげる。
 「ニトリ」の効率経営が巨大外資の価格戦略を変える。
 「割高な日本のインフラは可能なかぎり使わないようにしたい。中国に持つ大型物流センターに商品を集め、必要に応じて日本の各地の店舗に配送するという構想を描いている」。

ケース・5
 「グローバル化が進んでも国や地域ごとの消費動向に違いは残る。半面、ネット通販の普及で価格はフラット化する。国際価格が広がる。消費者は、世界を見渡して安い商品を探し出す」(法政大学教授・失作敏行・64歳の話)。

適応とは何か。適合とは何か

 ご紹介しているケーススタディは、「適応」と「適合」の事例です。

 「適応」とは、「需給ギャップ5%」という日本の経済社会の「実体経済」の中で持続可能な経営(仕事)の行動です。「適合」とは、「デフレ型の不況」にたいして、この「長期化していくデフレ」(平成21年度より3年間は続くというエコノミストの見解)の中の個人と、その集合のもつ必要性(ニーズ)と社会的な動因(共通する行動の動機)を言語に集約して、それを「認識」する言語能力です。「適合する言葉の能力」が「長期的な行動」を可能にして、昨日、今日、明日という時系列での行動を、「形式」「内容」の両面で「適応」させています。

 ここでの「言語能力」とは次のようなものです。
「所得が低下しても十分な生活ができる価格」
「消費は多様化している」
「毎日安く売るから、日々の設備投資のコストがかからない」
「日本のインフラは割高だ。中国のインフラは、相対比較してコストが安い」
「価格は、国際価格に向けてつねにフラット化する」

 ここには、「個人の消費行動」を「都市と地方」にメタファー化してカテゴリー分類し、そして「抽象概念」にまとめる、ということがおこなわれています。さらにその「抽象概念」が、行動可能な対象へと転化されます。「第2位以下の企業と交渉する」、「売場面積を東京ドーム3・7個分に拡大する」「長期コストのインフラコストを中国にシフトする」などが「上位」の「抽象概念」です。この上位の「抽象概念」を「行動可能」という「係数概念」でチェックしながら「個人の消費行動」まで還元させています。

 これが「論理」というものです。
 あるいは、「抽象表現」というものの「意味」(認識の中味)です。

日本人は「抽象概念」と不適合である

 このようにご説明すると、「自分は経営者ではない。まして、かかわっている仕事は小売業でもない。それなのに、なぜ、小売業に関係するカテゴリー概念の抽象名詞の学習が必要なのか?」という感想をおもちになる方もおられるでしょう。

 これについては、国語学者・大野晋の次のような発言が役に立ちます。みなさまは、すでに「推移律」(注・遠山啓の『水道方式』の「数」(かず)の量概念の根拠となる抽象思考の理論)をご存知です。

 大野晋は、ここで「日本の古典の文法」を対象にしています。「推移律」の「A=B」「B=C」故に「A=C」の定式をあてはめると、ご紹介している「小売業の抽象名詞」にも適用していただけます。

 「同じ日本の土地に生まれ、生きた昔の人たちが、何を感じ、どういうことを喜び、悲しみ、どういうふうなものの見方をしてきたか、ということを知っていることは、現在の生活を豊かにします。それから、昔のことは多くの点で現在と違うことは確かです。しかし、実は、昔と今はつながっており、今と昔は本質的には同じだということが、根源的な深いところで生じているのです。

 そして、現代の生活をもっと深く見つめたり、もっと広く理解するためにも、自分たちの先祖の世界を知ることが必要になります。」

 「我々の言葉は、連綿として続いてきています。だから、昔はこういう言葉を使っていた、こういうことを美しいと思っていた、こういうおもしろい言い方をしていた、こういうふうに物事を深く見ていた人がいた、そういうことを学ぶことによって、同じく豊かで深く、広い人間になろう、そういうことのために高等学校の段階で古文を教えよう、そして、古文を理解するには、まず文法を習わなければいけないということになるわけです。」

 「言葉は、それを使った人が使った意味、心情をそのまま理解することがいちばん大事なことです。日本語は他の外国語に比べると比較的変化が少ない言葉なので、今から千年くらい前の言葉でも、少し時間をかけて勉強すれば、高校生の生徒諸君がそのまま読めるようになる部分が少なくありません。」
 (『古典文法質問箱』角川ソフィア文庫)

 日本語(和語・やまとことば)は、抽象概念が少ない、しかし、「動詞」や「形容詞」は具体性に乏しく、その意味では「抽象的である」(注・ここでの抽象的とは「曖昧である」ということと同義です)と国語学者・大野晋や言語社会学者の鈴木孝夫はのべています。

◎日本語に抽象名詞が少ない例

日本語
「万物は流転する。」
(具体的に物を主語として、動詞でものをいう。)

サンスクリット語
「一切は無常なり。」
(A is Bという形に還元して、AはBである、という。抽象名詞の題目(A=一切)と、その判断Bという形で述べる。)

日本語の文法構造の特性

1.「AはBである」の文型を「名詞文」とも「形容詞文」ともいう。

2.日本語の「万物は流転する」のように、「する」という動詞で言い終える文型を「動詞文」という。

3.サンスクリット語では、「抽象名詞」を主語に立てる。述語に「形容詞」が多く使われる。すると「動詞」の使われ方が減ってくる。
その結果、「動詞」を修飾限定する役目をおびる「副詞」を使うことも少なくなる。

4.「抽象名詞」「抽象形容詞」でものごとを抽象化するということは、社会の中の個々の事例、生活の中や人間関係の個々の事例、仕事の中の個々の事例を別々に取り扱わない、ということだ。一般化して取り扱う。「一般性」を抽象し、「抽象名詞」として「文の題目(文主)」に立てて表現する文型になる。

5.「AはBである」「CはDである」という「形容詞文」は、ものごとの「物の性質」「事の本質」をとらえるというものだ。

6.日本語の社会は、『万葉集』『古今集』『新古今集』など抒情詩は非常に数多くつくられている。歴史の書物も豊富につくられて、人々は、それを好んで読む。個々人の感情を表わす「詩歌」の表現はきわめて微妙である。しかし、「思考」の結果を体系的に述べることは少ない。
全体にわたって抽象的にものごとの本質をとらえる、という仕方で「世界」や「社会」、「他者」を考えることは少ない。

7.日本語の社会では、抽象名詞はどう使われるか。日本語とは「漢語をまじえない日本語の語彙(ごい)・やまとことば」のことだ。
抽象名詞を最も多く使った作品『源氏物語』についてはこうだ。
「あつさ」(厚さ)、「おほきさ」(大きさ)、「ながさ」(長さ)、「ふかさ」(深さ)など、「さ」をつけた名詞が「抽象名詞」だ。「さ」という接尾語をつけた抽象名詞が使われた。しかし、この「さ」をつけた抽象名詞は『源氏物語』だけにしか使われていない。

8.「善」とか「悪」という言葉は抽象名詞の観念である。この漢字は「奈良時代」「平安時代」にもあった。訓読みはこうだ。「善」…「よし」「よみす」「ほむ」の三つだ。「悪」…「あし」「かたちみにくし」「みぬくし」「はじまうく」「にくむ」「にくみす」(形容詞、動詞)。副詞の訓の「なんぞ」「いかむぞ」「いづくんぞ」。
「善」「悪」には「名詞」としての形はない。日本語には、「善」「悪」の抽象名詞の「和語・やまとことば」は無かったということを意味する。

9.鎌倉時代の『歎異抄』(たんにしょう)は、「悪」と「善」をこう使っている。
本願を信ぜんには善も悪にあらず、念仏にまさるべき善なきがゆへに。悪をもおそるべからず、弥陀の本願をまたぐるほどの悪なきがゆへに善と悪は、「ぜん」「あく」のままに使われている。日本人は、個々人のそれぞれのその場、その場の個別的な感情、個々人の行動、動き、事態を述べて記すのが日本の抒情詩、物語、歴史の作品群である。ものごとを「善」や「悪」の抽象の観念の域で普遍的に認識するということはなかった。ものごとの個々を総括して統一的にとらえるという把握の仕方はない。また、ものごとを「抽象」の次元から「具体」の次元まで体系的に思惟(しい・ものごとの根本を心で深く考えること)する結果を直接に記述するものではなかった。そのことをこれらの事実は物語っている。

「ウェルニッケ失語症」と「ブローカー失語症」

■「悪」や「善」に象徴される抽象名詞がない、抽象の観念がないということは、これは、そのまま、「現実の社会」に直面すると、「見ているのに、しかし見ていない」、「聞いている。しかし、聞いていない」という「離人症」を生起します。
 その具体的な症状は、次のとおりです。

◎ウェルニッケ失語症の事例
 (『脳のしくみとはたらき』クリスティーヌ・テンプル。講談社・BLUE BACKSよりリライト・再構成)

 「しかし、このときが初めてです、私はいずれにしても何年も初めて考えました。
 私は病(やまい)の人です。
 病気ではありません。正常です。変な若者から、何か言われたような気がします。
 このときは、私は意識を本当に失ったのです。その彼は(ジャルゴン失語)、うーん(ジャルゴン失語)、私は家に帰ったのかもしれないことを意味し、二、三時間、何かを話していたかもしれないことを意味します。しかし、私はそのことを何も思い出さないのです。私は、おそらく仕事から外されたのでしょう。そのことを考えたくなくて、誰かと話をしながら眠っていたとも思えます。そうじゃないですか?(ジャルゴン失語)。変な若者とは、私の記憶の中にいつもいる人物とは限りません。実際に思い浮べると、親密に語りかけてくるし、会話もはずむからです。
 問題は、私が病(やまい)の時と病(やまい)の時でない時の境界が自分でもはっきりしないことにあります。ともかく、飼っている猫は元気なので何の問題もありません。」

◎クリスティーヌ・テンプルの解説

?ウェルニッケ失語症は、たいへん流暢(りゅうちょう・すらすらと話して言葉遣いによどみがないこと)である。これにたいして「ブローカー失語症」は流暢(りゅうちょう)ではなく、沈黙するか、問われたことに返事しないこともある。断片的に、その時、その時に思い浮んだ言葉を話す。

?ウェルニッケ失語症は、その話される言葉の内容を理解するのが困難である。理由は、話の脈絡の中に、その脈絡と不適合を起こす言葉や話の内容の筋道に逸脱を生じさせる言葉が話されるからだ。自分でも意味不明の言葉として言いあらわされるこのような言葉群を「ジャルゴン失語」という。「ジャルゴン」とは、聞いている人間にも、「その言葉の意味は何か?」と問われた時に「厳密な意味」を説明できないという意味で「訳のわからないちんぷんかんぷん語」のことをいう。

?ウェルニッケ失語症の特徴は、話の意味の脈絡の統一のためには「正しくない言葉」を使う。その言葉(単語)は「名詞」「形容詞」のいずれであっても解読するのが困難な「錯誤性」をあらわす。

?古典的なウェルニッケ失語症は「話し言葉」としての文法はよく保たれている。
しかし、現代のウェルニッケ失語症は、言葉(単語)の「ジャルゴン」ではなく、「説明すること」「記述すること」「伝えること」という「脈絡のジャルゴン」が多くなる。

?では、「ブローカー失語症」とはどういうものか。
「言語」の産生の欠落の失語症というものだ。
一般的には「もの忘れ」「健忘症」と取り違えられるが、同じものではない。言葉を思い出せないとか、断片的な言葉しか話せないというのではない。なぜかといえば、ブローカー失語症は、「ほんの少しの言葉しか産生できない場合」と「豊富な言葉を産生できる場合」との二通りがあるからだ。

?すると「ブローカー失語症」の特質は何かというと、「自分について、あるいは自分の周辺」の理解(=認知)はあるが、しかし、その「認知の対象」を「認識としての言葉」で構成して順序立てることが困難であるという「障害」であるということになる。

日本語の文法がつくる「ウェルニッケ失語」と「ブローカー失語」

■クリスティーヌ・テンプルののべる大脳生理学から見た「ウェルニッケ失語症」の事例を、「日本語による表現」の例で確かめます。
金田一春彦は『日本語』(新版・下巻、岩波新書)で次のように書いています。

◎ケース・1

A・「長谷川は私です」
B・「私が長谷川です」
1.AとBでは「長谷川」と「私」との位置が交換されている。交換によって助詞の「は」が「が」になっている。
だから、この場合の「が」は普通の「雨が降ってきた」「牡丹(ぼたん)の花が濡れている」の「が」と違う。強めに「発音」される「が」だ。

◎ケース・2

A・「君は何を食べる?」
B・「ぼくは、うなぎを食べる」
C・「うなぎはいくらのにする?」
D・「松にする」
2.ここでのAの「を」、Bの「を」、Cの「に」、Dの「に」は、久野暲(すすむ)のいう「総記」(注・全体を総括する記述のこと)の「を」「に」というべきものだ。
「総記」とは「強く発音されること」から命名されている。

◎ケース・3

A・「心に思ったとおり書くということは難しい」
B・「彼は手紙を日に二、三十通ぐらい書く」
3.ここでの「書く」という「動詞」は、表現は同じだが内容は「主観表現」だ。
Aの「書く」は「原形」だ。Bの「書く」は「終止形」だ。どのように使い分けるのかというと、Aは「です」「ます」体にはならないが、Bは「です」「ます」体になる。

◎ケース・4

A・「棒で柿の実を落した」
B・「薬をつかってゴキブリを殺した」
C・「猟師がキジを打とうとしている」
D・「電車で切符を落した」
E・「(野球の)バント失敗で無死のランナーを殺した」
F・「時計が二時を打とうとしている」
4.A、B、Cはそれぞれ「意志動詞」だ。D、E、Fは「無意志動詞」だ。国語学者・大野晋は、中古以前の助動詞「ぬ」と「つ」の違いを一方は「意志動詞」につくことが多く、一方は「無意志動詞」につくことが多いと断じた。
いずれも「日本語の主観表現」の事例となる。

脳と発声のメカニズム

■クリスティーヌ・テンプルのいう大脳生理学の見地からみると、「日本語の助詞・動詞」は、「ウェルニッケ失語症」のカテゴリーに入ります。その原因は、「a,i,u,e,o」の母音(ぼいん)を中心とした、母音(ぼいん)止まりの言葉にあります。対象となる「もの」「こと」を抽象の次元でも、具体性の次元でも明確に区別できない制約をもつためです。

 クリスティーヌ・テンプルは、このような「発声」と「発語」のメカニズムを次のように説明します。

① 言語研究への言語学アプローチでは「言語の音声」と「文法」とを強調する。脳は、言語の音素系の中で「音素」(phoneme)と呼ばれる最小単位を分析する素質をもつと主張する人がいる。たとえば、英語では「母音」に音素性の違いがある。例えば、
slipとsleepには意味の違いを生み出す音素の違いがある。この二つの単語には、違った「音素」がある。

② 「ヤコブスン」と「ハレ」(1956年)は、全ての言語の音素系は「二者択一的な二音素の特徴比」からなる「小数の用語」で特徴づけられることを示した。
彼らは、脳の神経系は、これらの特徴をつくり出し、「識別する」とのべる。彼らが解析した内容は次のようなものだ。

  1. 音声には「母音」と「子音」がある。母音は、開いた口の状態を通じて空気を動かし、声帯を振動させる。子音は口を、完全にか、ほとんど閉じるようにしてつくる。
  2. 子音は「閉鎖音」を含めて4つの種類がある。「口唇音」「歯槽音」「有声音」だ。
  3. 閉鎖子音は「p」「b」「t」「d」の4つだ。
  4. この4つの閉鎖子音をコンピュータで解析すると、「声音開始」の遅い、早いで、音の内容が変わる。音声開始は、「マイナス0・15秒」から「プラス0・15秒」まで、「0・01秒」刻みで変化する。
    遅い…音声p
    早い…音声d
    この中間の「0・01秒」には何の音も生成しない。
  5. この「0・01秒」は、「移行の鋭さ」ととらえられる。このパターンは、他の子音、母音でもとらえられる。
  6. 人間の脳は、「一つの音素カテゴリー」から「もう一つの音素カテゴリー」に類型化する。
  7. これは、聴覚に聞こえてとらえられる「聴性知覚」を「信号」として認知し、それに独自の解釈の「認識」を成立させるものだ。
『言語にとって美とはなにか』の核心点

■では、この解釈(認識)とはどういうものでしょうか。吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』(勁草書房)には、次のような記述があります。

① 人間は、現実のものごとにたいしての意識が強い構造をもつに至る。
音声は、自己を対象化するという能力の強化・発達の結果の自己表出として「有節音声」を発した。
② これによって、現実的な対象にたいして、反射ではなく、対象の像を指示できるようになった。
③ 「有節音声」は言語としての条件を全て具えている。
④ すると、この「有節音声=言語」は、現実的な対象との一義性をもたなくなった。

 吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』の論旨は、全て、この①②③④の内容に集約されます。

 「自己表出」と呼ぶものは、目、手、皮ふ、舌、耳などの五官覚の「認知」が、「認識の対象」に変わったということを意味します。人間の行動は、「短期記憶」と「長期記憶」の二つによって成り立つことが根拠にあります。「短期記憶」は、一回性や一過性の行動のことです。オペラント条件反射の記憶のソースになりえない記憶のことです。しかし、継続して同一の対象と関わるとき、五官覚の知覚は、「ウェルニッケの触覚の記憶」の強固さに裏付けられて、好きや嫌いや恐怖、快感の中枢神経の補強と根拠づけによって、「長期記憶」となり、「視覚」「聴覚」のそれぞれの記憶として「表象」するでしょう。

 人間の場合、動物一般が行動次元の「短期記憶」にとどめるのに対して、自律神経の「A6神経」と「A10神経」によって、「表象」の「恒常性」の中の「長期記憶」になるという特質をもちます。

 この「恒常性としての表象」(吉本隆明のいう『像』)が、「クリスティーヌ・テンプル」の記述する「音素」の対象になるのです。

 それは、自己を中心として「遠くのもの」は「子音」としてとらえられ、「近くのもの」は「母音」として結合したでしょう。

 それは、母親の「胎内」にいるときの「聴覚の記憶」とむすびつきます。

◎「遠くのものをさす音」…「母親の心拍の音」
◎「近くのものをさす音」…「母親の体内を流れる血管の血流の音」

日本人の葛藤能力の欠如の根拠

 日本人にとって、「胎内の母親の心拍の異常」(遠くのものを恐怖と記憶する根拠)に匹敵する「他者の意思的な悪意」というものは存在しなかったのです。これは、大野晋ののべる「日本人にとっては善と悪は不在」という説明のとおりです。人間が人間に対して働く苛酷な悪意の行動というものはなく、アニミズムによって表現される恋愛の情にとらえられる「かわいさ」とか「美しさ」しか認識されません。

 その結果、「母親の胎内」で経験した、「遠くにあって自分の心臓の心拍をおびやかすもの」という「意思」だけを表象して、「遠くのもの」には近づかないという「妄想」を長期記憶しました。これが「子音の発声の発達」を脱落させた根拠です。

 もちろん日本語(和語)にも「子音」はあります。しかし、それは必ず「母音」とくっつけてセットで発音・発声されるものです。

 このことは、「遠くのもの」を空想とか白日夢の域にとどめておく、つまり、言語化して実体化して、葛藤の対象にする、という経験も、経験の蓄積もなかったことを意味します。これが日本人の日本語のウェルニッケ失語症とブローカー失語症のメカニズムです。そして、このウェルニッケ失語症とブローカー失語症が「分裂病」をほとんど自動的に生成しつづけているといえましょう。

カウンセラー養成ゼミ NEWSLETTER 第231号 一部掲載

関連
「年金激震!」・1 「言語にとって美とはなにか」


連載
前回:日本語の文法の解体学・I 最強の知性のための「文法」と表現術
次回:日本語の文法の解体学・III 『言語にとって美とはなにか』2

参考:脳の働き方の学習のご案内

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人間は、誰でも「気持ちが安心」しないと正しく「ものごと」を考えられません。

「脳を最大限に発達させる」が教育の狙いと目的です。「指示性のカウンセリング」とは、 「一緒に考える」「共感し合って共に問題を解決する」カウンセリング術です。ものごとには「原因」(脳の働き方)があるから「結果」(心身のトラブル)があります。

「脳の健康を向上させる」、が教育のテーマと目標です。「指示性のカウンセリング」は、「考えたことを実行し、考えないことは実行しない」 という人間の本質を、最後まで励まし、勇気づけるカウンセリング術です。

脳の働きがつくる「人格=パーソナリティ」を育てる!が教育の方針です。
「指示性のカウンセリング」は社会性の世界(学校・仕事・社会の規範・人間関係のルール・合理的な思考)と正しく関わる!を一緒に考えつづけるカウンセリング術です。

ストレスに強い、元気に働く「脳」に成長させる!!が教育の魅力です。
「指示性のカウンセリング」は五官覚(耳、目、手、足、鼻)を正しく発達させて、言語の能力も最高に発達させるカウンセリング術です。


脳と行動の診断

「心の病いの診断学」が楽しく身につきます。

心の病いの予防と解消の仕方の「人間の理解学」が身につきます。

心の病いに気づける「人間への愛情学」が驚くほど身につきます。

「交渉術」の知性と対話の能力が目ざましく進化しつづけます。

相手の心の病理が分かって、正しく改善できるので心から喜ばれます。「心の診断術」

病気になるということ、病気が治るということが正しく分かる、最高峰の知性が身につきます。


よくある質問

朝、起きると無気力。仕事にヤル気が出ません。うつ病でしょうか?

仕事に行こうとおもうと、緊張して、どうしても行けません。治りますか?
バックナンバーの一部を9期後半分より、随時掲載していきます。
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ポルソナーレのゼミの様子をYouTubeに公開しました。

脳を発達させる日本語トレーニングペーパー 谷川うさ子王国物語

一部公開しました。
トップページ NEW! 年間カリキュラム 学習の感想と学習成果 「日本人の思考」と「谷川うさ子王国物語」と「グローバル化の恐怖」
学習内容(サンプル) 「言葉」 日本語の影響。その仕組みと感情、距離感、人間関係について
「脳を発達させる日本語トレーニング・ペーパー」の役立て方の資料
『分裂病の自己診断表と自己診断』
男性に嫌われない女性の話し方
女性に嫌われない男性のしゃべり方
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ポルソナーレのマスターカウンセリング

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《クマ江版・おそろし》
スクールカーストと
脳の働き方 百物語
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受講生の皆様へ 平成25年冬版 ポルソナーレからの真実の愛のメッセージ
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