欧米は「ダイバーシティ」(多様性を認める)という発想を中心に動いています |
本ゼミは、今回より第10期のレクチュアをスタートさせます。
立ち上がりのテーマとして「ダイバーシティ」(多様性を認める)という、全世界の生き残りをかけた未来形の「行動概念」をご紹介します。
生き残りをかけているのは、企業、国、地域の団体です。
もちろん、日本もこの中に含まれます。
「ダイバーシティ」については、2008・2月9日号の『週刊東洋経済』誌が特集しています。おおよその意味は次のようなものです。
- 世界のビジネスシーンでは、人種、性別、国籍、年齢をこえた「多様性」を受け入れなければ勝ち残れないし、生き残れない。
そこで生まれたのが「ダイバーシティ」(多様性を認める)という発想だ。
- アメリカのトップ企業では、CEOに直接つながっている「チーフ・ダイバーシティ・オフィサー」(CDO)を置くのが一般的になっている。
CDOは、ダイバーシティを推進する。
各部署で、「女性」や「マイノリティ」の社員の出世が妨げられていないか?を監視する。
「女性の活用の比率が低ければ、その担当の管理職の賞与に響くこともある」。
- 最近では、さらにすすんで、「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン」へと進化している。インクルージョンとは「吸い上げ」ということだ。
企業が「社会の映し鏡」になるように、性別、人種、性的な嗜好だけではなく、意見や考え方が異なる「人材」を揃える。これらの「意見」を全て「吸い上げる」というのがインクルージョンだ。これらの意見を「企業経営」に反映させるというものだ。
- アメリカの「ゴールドマン・サックス」は、世界で「2万人以上」の社員を抱えている。
ゴールドマン・サックス(GS)は、1999年のITバブルと2000年のITバブルの崩壊にともなって大量の離職と離職率の上昇を経験した。20歳代後半から30歳代前半の働き盛りの「女性」と「マイノリティ」の社員が次々に辞めた。
2001年に「グローバル・リーダーシップ・アンド・ダイバーシティ」を発生させた。
各国の組織は、「女性」「マイノリティ」の採用、登用の数値目標やトレーニング等について、定期的に、しかも綿密に話し合う。
「今後は、世界の白人人口が今よりも減っていく。白人はますますマイノリティになる。世界で上位10%の優秀な人材を採用したいと思うならば、性別や人種で差別するのはおかしいとGSの首脳は気がついた」。
- 各国の調査機関は、「女性活用」とりわけ「女性の管理職」「女性の役員の比率の向上」は、企業の成績を押し上げる、というデータをぞくぞくと発表している。
米カタリストの調べでは、「女性の役員が多い企業」は、「少ない企業」に比べて収益力が40%高いという結果が出た。
- 欧州でも傾向は同じだ。
「女性役員が3人以上いて、経営判断への影響力がある、というケースの企業の収益力が高い。だが、逆に、女性1人を経営会議に突っ込んでも効果はほとんどない」。
- ノルウェーでは「会社法」が改正されて今年の1月に発効した。「企業の取締役会は、一方の性が40%を下回ってはいけない」とする条項が加えられた。「改善の勧告」を受けてから3ヵ月たっても改善しない場合は、「会社法」の罰則に準じて、「会社」の解散にされる。ノルウェーは、国民一人当GDPが「世界2位」という競争力をもつ。ダイバーシティというタブーなき施策が競争力の源泉になっている。
- 日本ではどうか。
「日本では、格差、格差というけれども、ダイバーシティといってもまだ新語のレベルだ。日本で最も大きい格差があるのは男女格差だ」。
日本の女性の「大学進学率」は38・6%(2006年現在)。
勤続年数が増えるにしたがって「男女の昇進」に差がついていく。
結婚、妊娠を契機にしてキャリアや昇進をあきらめている。
世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」(政治、経済への参加、進学率などで「男女の平等度」を測る)では、日本は「世界で91位」にとどまっている。
「日本の企業は、ダイバーシティや、女性活用の目的をしっかり考えていない。育児支援などの手段にばかり走っている」。
- ヒューレット・パッカードは、女性幹部の活躍で世界的に知られている。だが日本では「女性役員」は0(ゼロ)人だ。
そもそも「女性社員の比率」が上昇しない。募集人員の80%が「理系」だ。
「日本国内の理系学部の女子の比率は10%強だ。採用したくても、日本では理系女性が極めて少ない」(同社のダイバーシティ推進部長)。
- 日本は、少子化が進行している。国内労働力が枯渇していく。
社会や経済はダイナミックに変化していく。すると女性の力を活用することは必須だと考えられている。
「日本がイノベーションを生み出すカギは、多様な経験をもつ人材だ。毎日、同じ電車で同じ人としゃべり、同じ机で同じ人たちとばかり交じっていては、新しいアイディアなどは出てこない」
(一橋大学大学院・国際企業戦略研究科、石倉洋子教授)
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「ダイバーシティ」の歴史的背景 |
日本も含めて、世界中で「女性が活躍している」という調査やリポートの要旨をかいつまんでご紹介しました。
「ダイバーシティ」というコンセプトが世界のトップ企業では、最重要の経営方針になっているという点が要点です。
なぜ、世界では、「女性」がビジネスや政治などの最先端に突出するようになったのか?については、これまで100年くらいの間に起きた「社会」と「経済」の変化に理由があると解説されています。
- 19世紀の産業革命以降、女性は、政治、経済、社会での「平等」を求めて運動をつづけてきた。
- 1960年には、アメリカで女性の大学進学率が上昇し、企業では「女性差別」を求める「ウーマンリブ」が台頭した。アメリカ政府は、女性、有色人種などマイノリティの人を優先的に大学、企業へ入れることを義務づける「アファーマティヴ・アクション」という法的手段を打ち出した。
- 1973年に、米通信会社(ATアンドT)で集団訴訟が起きた。当時、女性は、電話交換手が、事務職に限定されていた。これが「組織的な女性差別だ」と訴訟された。最高裁判所まですすんだ。「女性を平等に雇用すること」で和解した。これを機に、「雇用平等法」が広がった。
「採用してみると、女性は、男性と変わらずハードワーキングだと分かった。優秀さも変わらない。女性は、昇進するようになった」。
- 経済環境の変化が「女性」を必要とするようになった。80年代以降の急激なグローバル化での「ヒト・モノ・カネ」が国境を越える。企業は自分の国だけでモノ、サービスを売るだけでは生き残れない。「ヒト」の流れが活発になって、世界規模で「優秀な人材」の獲得競争が広がっている。
- 90年代になると、ITやインターネットの普及で、世界中のどこでも誰とでも仕事ができる環境になった。人材の流動化がさらに加速した。MアンドAが活発になり、文化、社会背景の異なる企業が一緒になるケースが増えた。
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日本で「ダイバーシティ」を実現している女性のケース |
日本で「ダイバーシティ」のコンセプトで仕事をしている女性とはどのような意識をもっているのでしょうか。
インタヴューに答えている何人かの女性の発言をご紹介します。(敬称略)。
- ?「ソフトバンクBB」のサポート品質管理部長。野村裕美
「高校卒業後、航空会社の客室乗務員となった。結婚して子ども二人を育てながら、生保営業、電話オペレーターを転職してきた。2004年にソフトバンクBBに入社した。お客様マインドを学んだので、これを活かしている。コールセンター業務の拡充と全国展開にとりくんだ。対応品質の改善にもとりくんだ。やりたい!とつねに手をあげてきた。そして新しい部署を立ち上げてきた。つねに走りながら仕事をしている。後輩の女性には、覚悟を決めれば道は開ける、腹をくくることが大切だ、と伝えている」。
- 「NTTドコモ」の執行役員で、社員環境推進部長の井手明子。
「休みが多くあればいい、辞めずにすめばいい、という時代ではない。女性の、がんばりたい、というニーズに応える時代になっている」。
- 通信ベンチャーの「イー・アクセス」。常務執行役員兼CFO(副会長職)飯田さやか
「CFOとは、代表権をもつ取締役のことです。米国州インディアナ大学で会計学を学びました。卒業後はシリコンバレーで監査法人KPMGの会計士として経験をつみました。入社してからは、私が、勘定科目を一から決めました。資金調達、IPOプロジェクトと大仕事をこなして、昨年、CFOに就任しました」
- ベネッセコーポレーションの執行役員に36歳で就任した成島由美。
「入社して3年目に、中3講座英語リーダーとして、継続率と受講者ともに過去最高記録をつくった。高2講座英語リーダー、小6講座編集長時代も、継続率で記録を更新するなどしてつねに結果を出してきた。入社10年目に、進研ゼミの中学講座が、毎年10万人ずつ減少した。2002年に中学ゼミ統括責任者になった。組織を改革した。顧客の聞き取り調査を学力別コース制や添削の返却期間を短縮した。生徒数の減少を止めた。辞めようかなと思うこともあるが、仕事と恋愛、結婚、子育ては両立するんだという夢を部下にもたせてあげたい」。
- 鹿島建設の「土木技師、技術開発促進グループ長」の天野玲子
「東大土木工学科を、女性で初めて卒業した。入社当初から、女性だから、という待遇の差はなかった。今は、東大の都市基盤安全工学国際研究センターで客員教授も兼務している。ハードな生活を支えるのは、気持ちの切り替えです」。
- 中堅ゼネコン「不動テトラ」の技術管理士「赤井洋子」
「午前5時から午後の9時ごろまで激務がつづく。この仕事の醍醐味(だいごみ)は達成感です。きっと女性でも充実感が得られるはずです」
- 警視庁の「警務部、教養課長、警視正」の滝澤依子
「警視庁にⅠ種合格の女性キャリアは少ない。1992年に東大法学部を卒業して警視庁に入庁した。今は、200人の部下がいる。警察官に必要な知識や武道などの技能を教育し、訓練している。今後も、都民の安全を守るためにがんばりたい。(現在、38歳)」。
- 「米JSAインターナショナル取締役」の小林由美
「日米の複数の企業で取締役を務めている。忙しく日米を往復している。1975年に、旧長銀に女性のエコノミストとして入社した。MBAの取得後、ウォール街で初の日本人女性のアナリストとして仕事をした。日本の女性はアメリカの女性よりも精神的によほど独立している。料理も裁縫も母親から受け継いでいるでしょう。アメリカにはそれがない。だからセックスアイコンになるか中性化していくしかない。だから、日本の男女格差は、私は全然心配していませんよ」
- 大分県の「由布市議会議員」の小林華弥子
「29歳で、イギリスから保養がてらに移住してきた。エチオピアで生まれて9歳まで香港で育った。女子大卒業後、イギリスのロイズ銀行へ就職した。移住してきたのは96年だ。04年に町議会選に出た。それが当選した。05年に市議会選に出馬して3位に当選した。自分が理想とする地方自治をやりたくて、地方議会の場を借りています」
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優秀で有能とは、学歴や資格の所有のことではない |
世界的なビジネスの最先端でコンセプトとされている「サイバーシティ」(多様性を受け入れる)の水準で仕事に取り組んでいる「日本の女性」のケースをご紹介しました。
ごらんになってどういう印象をおもちでしょうか。学歴とか資格を見て、「これは、非常に高いハードルだ。ちょっと超えられそうもないハードルをくぐった女性ばかりだから、特別に選ばれた女性ばかりだ」という印象をおもちになられた人もいるかもしれません。
しかし、ポルソナーレのカウンセリング・ゼミを受講して、学習している人ならば、「かくべつのことはない」と考えることができるはずです。
なぜかといえば、それぞれの女性たちが所属している「場」は企業だったり、自治体だったり公務員の環境だったりという「個別の規範」がすでに完成されているので、その「場」なり「空間」に正当に適合しているだけのことが説明されているからです。
ソフトバンクBBの野村裕美サポート品質管理部長は、電話オペレーターや生保の営業から学んだ「お客様マインド」を「ソフトバンクBBの仕事」に適応させているだけです。ソフトバンクを立ち上げて未踏の野に事業を立ち上げたわけではありません。「お客様のマインド」という対象にたいして「ソフトバンクのサービスをどのように提供していくか」を、「覚悟を決めて、腹をくくって取りくみつづけた」というだけのことです。
同じように、他の「サイバーシティ」として設定されている道を歩いたり、現に今も歩きつづけている女性の方々も、単に与えられている「仕事」を発展とか問題の解決のために取り組んでいるだけのことです。異常に特殊な能力や道なき道を運を天にまかせて、未知の壁を打ち破って現在位置に立っているのではない、という意味です。 |
「ダイバーシティ」にインクルージョンされている女性は、「コミュニケーションの能力を持つ人」のことである |
学歴とか資格とか、試験合格などはそれ自体は、「仕事の実力」を意味しません。これらの「認定」は言葉の水準を意味しています。
仕事にくっついている商品やサービスにはこれらのことを言いあらわす「言葉」があります。電車には電車に特有の言葉があり、飛行機には飛行機の言葉があって、自動車には自動車の言葉がある、ということはよくお分りでしょう。これらの言葉のうちどれかを選んで、過不足なく話したり、説明したり、サービスなり、消費なりを実現させられる「言葉の水準」に到達していますよ、と「認定する」のが学歴だったり、資格だったり、受験による評価です。
たったこれだけのことならば、女性でも男性でも、欧米のマイノリティの人々でも、誰がおこなっても同じだ、というのが「サイバーシティ」という概念の原義です。
しかしよく考えればどなたにもお気づきのことですが、ここにご紹介したケースに限ってだけを見ても、ここに登場している女性は、自分がたずさわっている仕事の商品なり提供するサービスを「消費」する人々の範囲の人間としか「話したり、説明する」というコミュニケーションを成立させられません。
人間の種類は無数にある中で、ごくわずかの限られた種類の人々としか意思疎通ができません。ポルソナーレのゼミを学習しているみなさまは、「人間の性格は?」とか「人間の心の世界は?」とか「人間の脳の働き方は?」というように、全ての人間と意思疎通が可能な言葉を習得しています。すると、ここにご紹介している女性のもつ「言葉」よりももっとはるかに高い水準の言葉の位置に立っていることになるのです。「サイバーシティ」などという概念は、下を見下ろせばかすかにしか見えないところで活発に動いているように観察されるでしょう。
では、ご紹介した14人の女性たちの特徴とはどういうものでしょうか。このように問いかける場合は、「比較考現学」という手法を用いると「論理実証」という客観的な証明が得られます。「考現学」とは、「モデルノロジー」ともいわれます。社会現象を調べてその真相を明らかにする学的な方法です。このような考察の仕方を「帰納法」といいます。個々の具体的な事実や現象から「万人に共通する法則性」を導き出す技術です。
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日本の20歳代、30歳代は「社会参加」を拒否している |
平成20年1月27日付の日経に「NPO法人・政策過程研究機構」(東京・渋谷)による日本の「20歳、30歳代の人」への「意識調査の結果」が報道されていました。
調査によると、「将来の目標、楽しみ」の中で最も大きいものは「配偶者と幸せな生活を送る」「子どもを無事に成長させる」などの回答が50%を超えていた、ということです。
「仕事を通じてスキルを磨く」「仕事をとおして収入を増やす」などを超えて「家族関連」を選択した人は「61%」にのぼる、というデータになっています。
ハーバード大学の「ハーバード流交渉学研究所」によれば、「人間の基本ニーズ」は5つだと説明されています。
1・「安全であること」、2・「経済的福利」、3・「帰属意識」、4・「認められること」、5・「自分の生き方を自分で決定する」、の五つです。この五つの基準を将来にわたって実現するためには「個人の責任」がになう「実力」が必要です。日本の「20歳、30歳の若い世代」の約60%以上は、五つの基準を「家の外の社会性の世界」ではなくて、「家の中の非社会性」の中に立てていることが分かるでしょう。
「仕事以外の時間を増やしたいという男性は確実に増えている。自由な時間をつくるためなら雇用形態もいとわないケースもあらわれた」(『週刊東洋経済』2008・2月9日号)
「勤め先から歩いて10分の場所で妻と暮らしている。始業は朝8時。残業はしない。18時には帰宅する。給料は、社会人一年目とほとんど変化なし。不満はない。このスタイルなら将来、育児ができる」(男性・33歳、派遣社員。興津智紀さん)。
「妻は、京都大学附属病院の看護部長だ。妻は、ぼくよりも仕事好き。時間を自由に使える専業主夫の方がありがたい」(男性・40歳。専業主夫。山田亮さん)。
ここでは、何が言われていることになるのでしょうか。分かりやすい事例があります。平成20年2月7日付けの日経の『私の履歴書』欄で、「日本サッカー協会会長・川淵三郎」は次のように書いています。 |
「ドイツ人」が教えた「正しい脳の働き方」で、日本のサッカーは世界の舞台に登れた |
- 昭和33年に東京で開かれたアジア大会で、日本は二連敗して、「グループリーグ」で敗退した。
- 次の年の「ローマ五輪予選」でも韓国に及ばず、「東京五輪」に向けて見直しを迫られた。
そこで、ドイツ協会にコーチの派遣を要請した。ドイツから「デットマール・クラマー」が送りこまれてきた。いまだに、なぜ、あれほどの人が日本人に教えに来たのかよく分からない。
- 当時の日本人コーチは「正確に蹴れ」と怒るが、「では、どうしたら」を教えられる人はごくわずかだった。
- 「クラマーさん」は、理論と実践を同時に示せる人だった。
「野球のボールを、曲ったバットで打つかい?まっすぐのバットで打つだろ?インステップキックも同じだよ。足首を一直線に固定する、ボールにかぶせるように蹴りなさい」。ぼくらは「曲ったバット組」だった。クラマーさんは、「曲ったバット」を真っすぐにしてくれた。13ヵ月間、指導を受けた。
- 「基礎技術」が身につくと、「パス・アンド・ラン」や「ミート・ザ・ボール」(自分からボールを迎えに行け)といった「基本戦術」にステップアップした。
これらの理論と実践の「どうしたらいいか?」の学習が「メキシコ五輪銅メダル」(東京五輪)につながったことはいうまでもない。
「川淵三郎」は、「サッカー」という「仕事」にとりくんでいたけれども「どのように」(では、どうすればいいか?)の言葉を知らなかった、と書いています。川淵三郎に限らず、「コーチ」として指導する人も、他の選手の多くの人々も同じように「知らなかった」と書かれています。しかし、ドイツ人の「クラマー」は知っていて、わざわざドイツから日本にやって来て滞在して教えました。「どのように?」ということは、「言葉」で振り返って、ある何ごとかの始まりから終わりまでを説明するということです。このような思考を「内省的な思考」といいます。日本人は、「このように、実行するんだ」と見本を見せてくれることはできたかもしれません。しかし「どのように」という対象との関わり方を言葉で、相手に伝わるようには「話せなかった」というエピソードが語られています。
ご紹介した14人のケースの「女性」は、ドイツ人の名選手「デットマール・クラマー」と同じように「どのように」という言葉を知っていた、ということになるのです。「仕事はしたくない。家の中で専業主夫でいたい。将来は、子育てができるから楽しみだ」とインタヴューに答えている「男性」は、「仕事」に関わるという局面では「どのように」という言葉を記憶していない、ということが明らかになるのです。
なぜ、このようなことがいえるのでしょうか。 |
「5W2H」とは、論理的な表現のための形式と思考法のことである |
「どのように」という言葉のパターンにあたる具体的な言葉が記憶されていない場合、それは、「行動が止まっている」か、「表面的に、見かけだけは行動していても、行動の意味の目的、目標といったことが欠落している…半行動停止」といいます、とお話してきています。
このようにお話すると「それは、5W2Hのことですね」ととらえる人がいます。「何を」(what)、「なぜ」(why)、「いつ」
(when)、「どこで」(where)、「誰が」(who)、「どのように」(how)、「どのようなコストで」(how much)のことです。これは、コミュニケーションのための技法です。コミュニケーションというひとつの完成された「行動」についての「どのように?」という内容のことです。このような「論理的な思考」を訓練して身につけている人は、すでに「川淵三郎」のいう「では、どうしたらいい?」の問いにたいして即座に答えられるか、正しい回答に向けて、学ぶことができる人のことです。
「お前でダメなら通信教育を辞める、と上司に言われた。そこで、売る物、売る日の全てを変える、という意気ごみで、進研ゼミを選ばない顧客に、その理由を聞き取る、というリサーチをおこなった」(前掲の「ベネッセコーポレーション」の執行役員、成島由美。36歳で執行役員に就任)。
この成島由美の「行動」は、「どのように」の言葉のパターンが目の前の仕事に向けて具体化されたものです。この「行動」の結果、「5W2H」の内容として「勉強しても実力の測定と評価がない」「勉強した結果の評価の連絡が非常に遅い」などの「記述」が完成されました。
すると、「ダイバーシティ」は「インクルージョン」(吸い上げ)によって成り立つことが分かります。「女性だから」という理由で「執行役員」になったり、「部下の200人を抱える部長職」に命じられるのではありません。学歴があっても、資格があって「仕事が好き」という、それだけの理由で「京都大学附属病院の看護部長」(前掲の山田亮さん・40歳の妻)に就任できるのではありません。「どのように」という「脳の働き方」のソフトウェアのメカニズムが明らかにした「Y経路」の言葉が記憶されている人に限って「ダイバーシティのインクルージョン」の対象になるのです。
「Y経路」の「どのように」の言葉を記憶できていない人のことを、『下流社会』(光文社新書)の中で、三浦展(あつし)は、次のように定義しています。 |
脳の働き方がつくり出す「下流化」の実体 |
男性編 |
- 「ヤングエグゼクティヴ系」…高所得志向で出世志向もつよい。階層意識は「上流27・2%」「中流50・0%」「下流22・7%」。仕事は「成果主義、能力主義を肯定する人が70%以上」。
- 「ロハス系」(「LOHAS」。健康で持続可能な生活様式の意)。スローライフ志向。出世志向が弱い。インターネットに自分のサイトをつくって会社以外に人脈をつくるのにも熱心。階層意識は「上流33・4%」、「中流33・3%」、「下流33・3%」。
- 「SPA!系」…雑誌の『SPA!』の主要読者層。中から下にかけてのホワイトカラー系。オタク趣味をもつ。ロリコン趣味、格闘技系趣味をもつ。収入が少ない。趣味にはお金をかける。のんびり長期休暇をとって早くリタイアしたいと思っている。キャリアアップには関心がない。
- 「フリーター系」…20歳から34歳までのフリーターは400万人を超えるといわれる。
半数は男性。
「大学を留年して卒業後、アルバイトをしていた。こんな仕事をしても将来がないと思い、小さなデザイン会社に勤めた。月収18万くらい。今26歳。生活水準は、中の中といったところでしょう」
(インタヴューに答えたAさんの話)。
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女性編 |
- 「お嫁系」…「女性の価値」を最大限に利用してゆとりある暮らしを手に入れるための戦略的な生き方をする女性。相手に求める年収は「1000万円以上
17・8%」、「800万円以上16・3%」、「600万円以上29・7%」、「400万円以上29%」「400万円未満7・2%」。
- 「ミリオネーゼ系」…学力が高くて職業志向のつよい女性。年収1000万円以上の人もいる。「ミリオネーゼ」とはSix
Figure(6ケタ)つまり10万ドルのこと。約1000万円以上の年収を意味する。
未婚でマンションを買う人もいるが(首都圏で一万人以上)、結婚して共働きの人もいる。
- 「かまやつ女系」…「手に職系」か「ストリート系」のこと。美容師、菓子職人、デザイナー、ミュージシャンなどアーチスト系職種を目ざすタイプ。
ファッションの特徴が「かまやつ女系」。
一人前の職業人になる前に挫折してフリーターになるケースが多い。
- 「ギャル系」…けばけばしい外見をしている。しかし、彼女たちは専業主婦志向が非常につよい。外見は「お嫁さんにしたくなるタイプ」ではないが、「22歳か23歳で結婚して、子どもを2人か3人生んで育てたい」という夢をもつ。「できちゃった婚」の人も多い。愛があるかどうかは分からないが「フリーター主婦」のような場合がしばしばである。
人生にたいしての計画性、将来予測能力は弱い。「子どもの教育とかは考えない」と話す人が多い。
- 「普通のOL系」…いちばん人口が多い層。「ミリオネーゼ」のように仕事に生き甲斐を見出すには意欲も能力も不足している。
「ギャル」になるには知性も学歴も高く、美容師やアーチストになるほどのセンスや自己表現の能力もない。自由になりたいと考えて「派遣社員」になり、「自分探し」「癒し」「プチ自己実現」に明け暮れている。
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「下流化」はさらに「ワーキングプアの女性」を生み出す |
三浦展(あつし)の調査分析の対象から外れているのが「格差」を象徴する「ワーキングプアの女性」です。
2000年から急増して、2006年には78・8万世帯と過去最高水準になっています。就業している女性は83%です。収入状況は厳しく「平均233万円」です。
OECD加盟国でも貧困率の高さは「トルコ」「ギリシャ」と同じレベルだといわれています。
「朝、マイカーで職業訓練所へいく。障害者にPC操作を教える。1年間の契約だ。午後5時に仕事を終えて居酒屋へいく。夜の12時までアルバイトする。仕事が終わるのは午前2時。睡眠時間は4時間。週末は温泉で仲居の仕事をしている。日よう日もスーパーでアルバイトをする。月に2回休む。たまった家事をかたづける。中1と高2の子どもと話をする。これ以上、働けない。子どもの学費など考えられない」(42歳。塩崎千恵子さん。福島県)。 |
脳の働き方を変えなければ「上流」も「下流」か「下層」になる |
これまで本ゼミでは、「脳の働き方」とは「行動」に対応した「言葉」の記憶のソフトウェアのことです、とお話してきています。「行動」は「未来形」か「過去形」の二つの「言葉」に分かれます。「過去形」の言葉は「何を」「どうした」という行動が終了したときの言葉です。「未来形」の言葉とは「いつ」「何を」「どこで」「どのように」か、「何を」「どうする」のパターンに該当する言葉です。「行動」は、脳の働きの「記憶のソース・モニタリング」によって発生します。「未来形の言葉」の「どのように」に該当する言葉が「記憶」されていなければ、「中流」から「下流」に向けて失墜していきます。
日本はもちろん、世界の「女性」を中心とする「格差」は、このような「脳の働き方」がつくり出しているのです。 |