2009・5月現在のグローバル・リセッション(世界同時景気後退)の状況 |
2008年9月のアメリカの証券会社「リーマン・ブラザーズ」の経営破綻から急激に、しかも短時間(短い日数)で世界中に広がった「世界同時不況」から、約半年が経過しました。新聞やテレビなどで、さまざまな角度から世界中で起こっている「グローバル・リセッション」について解説されているので、今、何が起こっていて、何がなされようとして、何がなされているか?についてはよくご存知のことでしょう。そこで、ポルソナーレふうに、人間と社会の関係から「アメリカ発の金融システムのバブルの崩壊」と、その後の「現在」についてわかりやすく解説することから始めてみます。
- 世界の各国の経済は、「物」を中心とする貿易で発展してきた。とくに、日本は輸出企業の輸出を中心にして経済を成長させてきた。
- この中で、輸出、輸入という交易から「利益」(収入)がつみ上がって大量の「マネー余り」が発生して、「何に投資するか?」という問題が起こった。
「投資先が無い」ので、「国際競争力」をテーマに「物」(商品)の生産コストを下げて価格を下げるか、付加価値といわれる「質」の水準を上げて経済成長が追究された。
- しかし、それでも「マネー余り」(お金余り)と「投資先が無い」という状況がつづいた。そこで、「金融商品」の規制を無くして「お金」そのものを商品化するという新たな状況がつくり出された。ここに、ノーベル賞受賞級の学者が参加して「金融商品」が工学的に組み立てられたり、市場システムが構築された。
- 「金融商品」が経済成長の柱になり、収益の土台になった。このことは、「物づくり」「人へのサーヴィス」「人間の成長や発達」「人間の心身の安全や安心」といった実体経済への投資が、相対的に低下したということだ。相対的な低下とは、「マネー」と「実体の価値」(生産と消費)との一義性がなくなり、「マネーの記号としての数値」(マネーの量)が拡大して「借金化した」ということだ。
「期待価値の膨張」という。これが「バブル」である。経済用語では「信用の膨張」といわれている。
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「バブル性」の商品は、「バブル性の観念」も生産した |
- 「期待価値の膨張」(信用の膨張)は、「実体経済」から乖離(かいり)するという「ものの考え方」によって成り立つ。
「人へのサーヴィス」「人間の成長や発達」「人間の心身の安全や安心」といった「実体経済の価値」とは大きくかけ離れてそれ自体に価値があるかのように「交通」し「流通する」ということだ。この考え方が「輸出商品」や「生産過程」の中に取り込まれて定着した。ここから、次のような「バブル性の観念」が産出されて、経済社会に広がった。
- バーナム効果…バーナム・サーカスの出し物(演目)が由来。人気のあるものだけを選んで上演して、価値があるかのように見せかけること。
- 肯定性バイアス(確認バイアスともいう)…ものごとの一面しか見ないで評価するものの考え方。そのものごとの「否定面」を見なくて無視する。また、全く無関係の二つのものを恣意的にむすびつけて、これを行動のための判断の基準にするものの考え方のことも肯定性バイアス(確認バイアス)である。
- 多元的無知…①事後情報で記憶の想起の内容が変わる、②人の目や人の評価を気にしてもっともらしく説明する(バーバリズム)、③知らないのは自分だけだと思いこみ、知っているフリをする、④テレビの宣伝、学者などの権威、有名人の言うことを無媒介に信用して「プラシーボ効果」を得て満足し、喜ぶ、など。
- 負の「バイオ・フィードバック療法」…薬物療法、宗教行為などで、自律神経の働き方が変わる効果のこと。交感神経の過緊張が低下したり、副交感神経が優位になるなどの効果のことだ。
この効果を持続させるために、正当な精神活動や社会参加の機会損失を生じて、もともとの不適合が深化する。
- ライデンフロスト効果…もともとは、インドの行者の「火渡り」が語源。
足の裏に塩水を塗って火の中を歩けば、熱さを感じる感覚がマヒして熱さを感じない、というものだ。
「まじない」「思い込み」から始まって「ケータイ」や「インターネット」による「孤立の解消感」、「お化粧、ファッション」による自尊意識の回復、「音楽愛好」、「娯楽」への執着(フリーター、ニート、不登校、引きこもりなどのカテゴリーも含む)などが広義の「ライデンフロスト効果」になる。
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「信用の収縮」とは「バブル性の観念」の淘汰と同じ意味をもつ |
■『週刊ダイヤモンド』(2008・5月16日号)によれば、日本の経済社会に引き起こされた「期待価値の収縮」(信用収縮)のもたらした「バブル性の観念」とは、次のようなものです。
① 過去に例のない今回の経済成長の落ち込みは、世界経済の収縮にともなう「自動車」や「電機」の減産がきっかけとなってもたらされた。
② 急激な景気減速の結果、今後、雇用に大きな悪影響が生じると予想される。
経済理論に「オークンの法則」がある。「経済成長と失業率の間には一定の関係がある」と説明する法則だ。1995年の以降のデータにもとづけば、日本の経済成長率が「1%」低下すると「Ⅰ四半期後の失業率」が「0・17%」ほど上昇する、というものだ。この係数を「オークン係数」と呼ぶ。
③ 悲観ケースと楽観ケースの二通りが試算される。
悲観ケースは、2009年度と2010年の経済成長率を「マイナス6・5%」、「マイナス0・2%」と設定する。この場合、2010年の完全失業率は「6・0%」(休業者要因を加味した失業者は391万人)になる。
楽観ケースは、2009年度と2010年度の経済成長率が「マイナス2・2%」「2・5%」になる。このケースでは「完全失業率」と「失業者数」は、「2009年10月~12月期」に「4・9%」「319万人」に達した後、改善に転じる、という計算になる。
(永濱(ながはま)利廣(としひろ)第一生命経済研究所主席エコノミスト) |
「パラダイム」は変わった |
④ 日本の正社員は過度に守られている。なかでも解雇は非常に難しく、労働市場の流動化を妨げている。
日本は、解雇規制を緩和した方がいい。それは、特に若い人のためになる。
⑤ 今は、「パラダイムシフト」の時だ。(パラダイム……時代や社会の中の思考の前提、考え方の方法、枠組みのこと)。
「外需依存のホワイトカラー」「妻は専業主婦で家にいる」「子どもは、大学に進学させさえすれば、それが人生」といった理想像は捨てたほうがいい。「働き方」「生き方」が制限されて画一化される。
⑥ 「昭和的な価値観」を捨てることができれば、今ほどチャンスのある時代はないと思う。すでにこのことに気づいて、大企業でなければ自分の人生はないという考えをよしとせず、社会起業家など、自分の持てる力を武器にして、自身の力で道を開こうとする若者も登場しはじめている。
(城(じょう)繁幸「人事コンサルティング・Joe's Labo」代表)。
⑦ リクルートコスモスで人事部を担当し、今は「経営コンサルタント」の今野誠一の話。
- リストラの対象にならないことが大切だ。上司の同僚、同期、その直属の上司と良好な関係をつくることだ。自分の評判、地位が相対的に上がる。
- プロジェクト、委員会には参加して、仕事の姿勢をアピールする。他部署の実力者に認められれば「彼は残した方がいい」と救済の手を伸ばしてくれる可能性がある。
- 企画や提案を増やしていく。仕事への意識の高さを理解してもらうように守る。同僚の評価が高まれば、上司の評価が低くても、簡単にはリストラのリストには載せられない。
- 飲み会などの場には、積極的に参加する。前向きになれなくても、なにがなんでも生き残りたいと考えるなら、二次会、三次会にも参加する。
⑧ 外資系企業にも勤務経験のある「経営コンサルタント」の中川洋の話。
- 人事管理は、必ずしも合理的ではない。日頃の付き合い、コミュニケーションがいざという時に重要になる。
- ビジネスは、もちろん業績を上げてこそであるから、個人の能力、実力の維持、向上の努力は不可欠だ。
ここでは、「代替えがきかない能力こそが重要」になる。ここは自己投資の局面だ。
- リストラが始まる状況で、最後までリストラの対象にならない人は、「人材だ。その部署に不可欠な資源性としての人物だ。説明する力、質問する力、共感する力をもつ人物が、上司が手放したくない人物ということになる」。
以上のことを「会社人間の典型」として受け容れないのは一つの考え方だが、今日、サバイバルのための処世術として割り切るのも、決して悪いことではないはずだ。
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日本人のパラダイムの「依存」「甘え」が崩壊した |
■ここでいわれている「失業」の危機と「失業」後の生き残り方にともなう問題とは、何でしょうか。
まず、「自分の行動を、仕事や社会の場面での活動として適応させられる」ということと、「他者の行動とその活動の内容を理解して合意できるという適合の能力」のことがいわれています。
いいかえると、「アメリカ発の金融システムのバブル崩壊」は、日本人に、今まで見たことも聞いたこともない「個人の行動力と活動力」を求めているということを浮上させているのです。
「行動」とは、何のことでしょうか。
国語学者・大野晋の説明にもとづくと、「自分の位置」から、ものごとを「遠いか、近いか」を区別しない、ということです。日本人は、「遠い所にあるもの」を「近づかない」「手を加えない」「成り行きにまかせる」という日本語(和語)のメカニズム(文法)で考えているからです。
「遠い所」にあるものとは、「輸出依存」という経済成長のパラダイムであるでしょう。それが、今、崩壊しているのが日本の現実です。もし、日本人の多くが「日本語(和語)の文法」に規定されているとおりに「輸出依存」ということを考えているとすれば、どうイメージが表象されるでしょうか。『週刊ダイヤモンド』誌からご紹介した中川洋、今野誠一、城繁幸、永濱利廣のそれぞれの人が語っていることは、実感のレベルでは「オブラート」に包まれているかのような印象がイメージされるでしょう。「右脳系の前頭葉」に、右脳の「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」が記憶しているはずの「認知のイメージ」が思い浮ばないということを意味するのです。
これは、左脳「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」で、各氏が語っている言葉の「概念」とその意味が未習得であることにもとづいています。
また、「活動」とは何のことでしょうか。脳の働き方のソフトウェアのメカニズムからみると、「行動」と「活動」は、その意味するところは全く異なります。認知発達心理学でもいう「活動」とは、「意思」をもつ主体のことです。 |
日本人には「意思」の主体が無い |
「意思」とは、好きだ、嫌いだ、したい、したくない、ヤル気がしない、ヤル気がある、といった「欲求」や「欲望」の自覚のことではありません。「ルール」「約束」「きまり」といった「秩序」(社会規範)のメタ言語の形象像と、これにもとづくメタファー(言葉)を「長期記憶していること」が「意思」です。日本人は、大野晋(国語学者)や鈴木孝夫(言語社会学者)が実証的に説明しているとおり、この「意思」という観念を長期記憶していません。長期記憶は、「行動」を可能にする脳のソフトウェアのメカニズムです。
「行動」とは、Y経路の対象の「遠い位置空間」に向かって身体を移行させることです。生育歴の中の「愛着」をとおした「発達」として記憶されるものです。この「発達」が欠落しているのが日本人です。この「欠落」は、アメリカの発達心理学者「エインズワース」が『ストレンジ・シチュエーション』という「愛着の安定・不安定」を測定しています。そして、アメリカ・マイアミ大学の「フィールド」が、「母と子の行動の周波数解析」によって実証的に説明しています。これは、母親と乳児のそれぞれの「心拍数」のリズムをグラフの線であらわしたものです。「うつの母親は、子どもの行動に同調しない」のでリズム曲線は、母と子の間でつねに離反しているという現象を見ることができます。
すると、おおくの日本人は、「日本経済の輸出依存」とその「依存の崩壊」ということの情報を見聞きしても、自分の「行動の対象」ではない、というように「遠い所にあるものは放置する、成り行きにまかせる」という「アジア型の共同幻想」のままに了解するでしょう。「まだ、自分には甘えの対象がある」ということを急いで探して、知的無関心の底で安心感を得るのです。
このことは、『週刊・ダイヤモンド誌』から紹介したエコノミストの各氏のコメントを見たときの体験に置き換えることができます。
「遠い位置にある対象」という了解のテーブルの上に載せたとしましょう。
「自分はこのような活動はおこなわない」というモチーフをイメージするでしょう。
このモチーフを変形させて「肯定性バイアス」が語られるということを意味しています。 |
日本人は、「内需」のために人材育成、自己投資をおこなうべきというこれだけの根拠 |
「活動」という「メタファー」について、少しくわしくご説明します。
平成21年5月21日付の日本経済新聞では、次のように報道されています。
① 日本の一月~三月期の実質国内総生産(GDP)は、前期比「4・0%減」(年率15・2%減)となり、戦後最大のマイナスとなった。
② 「在庫調整」が進んで、生産には底入れの兆(きざ)しもある。輸出にも復調の動きがあり、四月~六月期のGDPはプラス成果になる可能性が高い。
③ 「七月からは実需に見合った生産が可能だ」(日本鉄鋼連盟・宗岡正二会長)。
「生産は、四月~六月期にプラスに転じる」(三菱総合研究所・後藤康雄)。
「世界的な在庫調整の進展で、輸出は、夏場にかけて高めに出る」(日興シティグループ証券・林嶋帰一)。
「公共事業の積み増しが四月~六月期から効果を見せる」(三菱UFJ証券・嶋中雄二)。
④ 各エコノミスト氏の景気動向の予想。
- 回復加速型…「2009年マイナス3・7%」「2010年プラス2・1%」(菅野雅明。JPモルガン証券)。
「2009年マイナス3・1%」「2010年プラス2・3%」(嶋中雄二、三菱UFJ証券、景気循環研究所)
- 一進一退型…「2009年マイナス3・9%」「2010年プラス1・4%」(後藤康雄、三菱総合研究所)。
「2009年マイナス3・5%」「2010年プラス1・1%」(新家義貴。第一生命経済研究所)。
- 離陸後横ばい型…「2009年マイナス4・2%」「2010年プラス0・5%」(山本康雄。みずほ総合研究所)。
「2009年マイナス3・8%」「2010年プラス0・9%」(竹内淳一郎。日本経済研究センター)
- 年内息切れ型…「2009年マイナス4・1%」「2010年プラス0・5%」(林嶋帰一。日興シティグループ証券)。
「2009年マイナス4・6%」「2010年マイナス0・1%」(河野龍太郎。BNPパリバ証券)。
「2009年マイナス3・8%」「2010年マイナス0・5%」(熊谷亮丸。大和証券)。
「2009年マイナス3・5%」「2010年マイナス0・7%」(木内登英。野村證券金融経済研究所)。
- 平均
「2009年マイナス3・8%」
「2010年プラス1・0%」。
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「バブル性の観念」を抱えていると生き残れないという新しい「パラダイム」 |
■この予測でいわれていることは、「在庫調整」(リストラも)がいったん終わり、「景気がこれ以上落ち込むことはない」(景気の底割れの回避)、そして「実需に向けた生産に移行していく」ということです。
「行動」と「活動」という言葉から見ると、「バブル性による収益分」がダウンして、「マイナスに低下した」ということが説明されています。
この「前年比のマイナス分」が「失業」であり「倒産」であり、「大企業の社員の収入減」ということになるのです。
そして、「行動」と「活動」という観念に「推移律」で置き換えると「バブル性の観念」が淘汰されて、「調整」(学習)を経て「再構築」されるということになります。「再構築」とは、経済学的には「内需」のことです。「非バブル性の実体に見合う価値」のことです。
「バブル性の観念」とは「肯定性バイアス(確認バイアス)」、「多元的無知」「認知バイアス」「プラシーボ効果」などのことです。これを病理学に移行すると「LD」(学習障害)、「ADHD」(注意欠陥多動性障害)、「アスペルガー症候群」(高機能自閉)であるでしょう。
子どもの時期はLD、ADHDで推移し、成人するとアスペルガー症候群化するというのが、ポルソナーレの「脳の働き方」から見た考察です。 |
X経路中心の生み出す世界規模の「障害」という「バブル性の観念」 |
榊原洋一(東京大学医学部付属病院小児科医長)は、ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)の「DSM‐4」の診断基準を紹介しています。要点を整理して再構成すると次のとおりです。
I ・不注意
a.学業、仕事で注意を持続できず、不注意の過ちをおかす。
b.活動の中で注意の持続が困難。
c.話しかけても、聞いていないように見える。
d.勉強、用事、仕事の義務、決めたことを最後までやりとげることができない。
e.活動を順序立てることがむずかしい。
f.精神的な努力をともなう活動を避ける(嫌う、しかたなしにおこなうことも)。
g.活動に必要な物をなくす。
h.自分の欲求を刺激するものに容易に注意をそらさせる。
i.毎日の活動を忘れるか、後回しにする。
(6つが該当して、6ヵ月つづくと、発達の欠落という診断になる)。
II ・「注意」にかんする実験
?実験・1
- 被験者の前にスクリーンがある。横に「赤」と「緑」のランプがある。
- 「緑のランプ」がつくとスクリーンの右端にうさぎの写真が映し出される。
- 「赤のランプ」でもうさぎの写真が映し出されるが、スクリーンのどこに出るかは分からない。
- もし「ADHD」の人が注意を向けることに困難があるとすれば、「緑色のランプ」に反応して「右端を見る」という行動がとれないはずである。
- だが「ADHD」の人も普通の健常者と同じように素早く反応した。
- しかし「ADHD」の人は、健常者と違うところがあった。「ランプがついてから、スクリーンにうさぎの写真が出るまでの時間を長くする」と誤った反応をする。
- 「いったん注意を、あるものからそらして、また元に戻る」ことを「注意の再定位(さいていい。
reorientation)」という。この「注意の再定位」が正しく行動しないのが「ADHD」である。
?実験・2
- 被験者にヘッドホンをつけてもらう。「左右の耳」で「別々の文章」を聞いてもらう。文章の中には、「あらかじめ決めておいた言葉」(ピンクのうさぎ)が、「右の耳」から聞こえた時だけ「ボタン」を押す。
- このテストでは、ADHDの人も健常者も、「ピンクのうさぎ」という言葉をとらえることができる。差はない。
- だが、目の前に、「緑」と「赤」のランプを置いて、「赤のランプ」がついたら「左の耳」で「ピンクのうさぎ」という言葉をとらえてもらう、というルールの実験をおこなう。「緑のランプ」がついたら「右の耳」で聞く。
- 「ADHD」の人は、「耳」を変えるランプが出ると、混乱する。「ルール」に従って正しく聞く「耳の変更」が出来ない。
「注意の再定位」が困難であることが分かる。
?実験・3
- ADHDの人に、「静かな環境」と「バックグラウンドミュージック」(BGM)が流れる環境とで「算数の試験」をおこなう。
- BGMのある時の方が、集中して試験をおこなうことができて良い成績であった。
?実験・4
- 「あるサインが出たら、ある行動をおこなう」という実験だ。「動作禁止実験」と呼ぶ。
- 「緑のランプ」がついたら「目の前のボタン」を押す。
- しかし、条件がある。
「緑のランプ」の直前に「赤ランプ」が一瞬ついたら「緑のランプ」がついてもボタンを押さないというものだ。
- ADHDの人は、ここで健常者と差が出る。
ADHDの人は、直前の指示で、開始しようとしていた動作を止めることが不得意なのだ。
- だが、「赤ランプ」と「緑ランプ」の間隔を広げると、ADHDの人も行動
を止めることが出来る。
しかし、その「間隔」は、健常な人よりもずっと長いのである。
- このことから「ADHDの子ども」は「行動」(衝動)を抑えることができないのではなくて、「いったん始まった行動を途中で止めることができない」のである。
?考察
- ADHDにかんする観察は次のようなものである。
- ADHDの障害とは、「動作が遅い」そして「動作を間違えやすい」。
- いったん始めた「行動」を途中で切り換えることができず、どこまでも「行動」をつづける。
- 「言葉のスピード」が速くなると、その「言葉」に集中できなくなる。
- いったん注意が外れると、初めの「注意の対象」に戻ることが難しい。
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「疫学」という「プラグマティズム」がとらえた「障害」 |
■このような実験は、「疫学」(えきがく)の考え方にもとづいています。
「疫学」とは、どういうものでしょうか。
19世紀にロンドンでコレラが流行しました。この時に、患者の住居を地図の上にプロットしました。すると、そのプロットは、ある井戸を中心に分布していることが分かり、その井戸が感染源であると同定したのが「疫学」の始まりです。この方法は「個人」の患者のみでは原因が分からない場合、「多数の患者を調べる」、「その患者が共有している特性」を分析することで「病因」や「病気の性質」を突き止めることができる、とする考え方です。ADHD、LD、アスペルガー症候群は、この「疫学」の方法でとらえられた「障害」です。「DSM‐4」の診断基準は、このような方法でまとめられました。
しかし、LD、ADHD、アスペルガー症候群(子どものケースは、高機能自閉)は、エインズワースが考案した『ストレンジシチュエーション』で測定される「不安定な愛着」に原因の所在があることは、よく知られています。 |
「行動」が止まり「活動」が破綻する原因 |
◎ストレンジ・シチュエーションによる「愛着」の分類
Aタイプ…母親が離れると悲しそうな表情をする。他人が来ると泣き出す。母親が戻るとすぐ安心するが、愛着は少ししか示さない。母親との安心関係を諦めている。
Bタイプ…母親と離れることに抵抗を示す。他人の前では過度に不安になる。
母親が戻ると、不安を訴えつづける。そして大喜びもする。母親を叩くこともある。自分の不安を、母親にぶつける。
Cタイプ…母親に過度にこだわる。依存的である。
母親がいなくなると無気力になり、何もしない。未熟で幼い行動をとっていつまでも内心の不安がつづいているかのように行動する。また不安になるのではないか?と疑い、母親にしがみつき、ぐずぐずと不満をあらわしつづける。
Dタイプ…母親にたいして非常な悪感情を抱く。行動は不適応型で、ルールやきまり、約束ごとに則して行動をあらわすことが困難である。
●アメリカ人に多いのが「Aタイプ」で、日本人に多いのが「Bタイプ」であるといわれています。
「Aタイプ」は、アメリカ・マイアミ大学の「フィールド」が解析した「母子関係の対応・行動のグラフ」でいうと「うつの母親と乳児」の「非同調のパターン」にあたります。この「Aタイプ」の子どもは、「Y経路の行動の対象」の「言葉」を学習して長期記憶することができません。しかし、年齢が上がり、生活の中の行動体験が増えるにしたがって「暗記」の能力は向上します。これは心臓の心拍の低下に耐える力が向上するということです。「愛着」の中の「同調がない」とは「ガマンの力」が少ししか伸びないということです。その結果、社会性の場面の行動に必要な言葉は憶えることは可能でも、その「カテゴリー」は限られるということが生じます。
「カテゴリー」とは、例を上げると「上位カテゴリー…動物」「中位カテゴリー…人間、犬、猫など」「下位カテゴリー…自分の家の猫、自分の家の猫のミケ、など」といったものです。Aタイプの子どもは、「下位カテゴリー」は記憶できても、「中位、上位のカテゴリー」は記憶できません。すると、学校、職場の中で「中位カテゴリー」や「上位カテゴリー」の概念が耳に入ってくると心拍が低下して、無呼吸症の状態がつづくのです。無理に記憶を探すというのが「注意欠陥」をあらわす心理実験です。 |
日本人の「甘え」のつくる「自己滅亡」の対策はこういうものです |
日本人は、「Bタイプ」が多いことは、よく知られています。
「Bタイプ」は、母親が側に居ないと憶えることをしないという条件つきの「愛着のシステム」を形成しています。「依存するもの」「甘えるもの」が無いと「行動のための言葉を憶えることができない」というモデルになります。
そして、このパターンが成人すると「アスペルガー症候群」になります。その「障害」は、榊原洋一が示しているいくつかの「実験」の結果のとおりの「記憶探し」や「記憶の想起待ち」といったものです。
この「アスペルガー症候群」との交渉術は、次のとおりです。
1.ゆっくり話す。
2.動作、行動の対象をていねいに確認する。
3.大きめの声で話してもらう(息を吐くことをやってもらう)。
4.なんどでも、ていねいに優しくくりかえして、コミュニケーションをおこなう。
5.行動の順序を確認する。
6.行動、活動の結果を喜ぶ
といったものになるでしょう。 |
アスペルガー症候群との交渉術のスタンス |
「アスペルガー症候群」の人との交渉のための学習モデルは次のとおりです。
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活動の能力を高める知性の学習モデル |
(注 A=B、B=C、故にA=Cという推移律(因果律)の学習モデルです)
■エクササイズ
◎事例・I
A・暑さ寒さも彼岸まで(行動の対象と、その言葉(メタファー)に相当する。以下同じ)。
B・意味 (遠山啓の水道方式のタイルに相当する。推移律の基準になる。以下同じ)。
暑さは秋の彼岸の頃には衰える。寒さは春の彼岸の頃には和らぐ。それ以降は過ごしやすくなる、という意味。
C・設問
●アスペルガー症候群との交渉のための用例として適切なものはどれでしょうか?選んでください。
用例
- なかなか成長しないように見えても、見えないところで変化しているから、くじけずに関係を安定させるべきだ。
- 学習のことを教えて、抵抗しているように見えても、どこかで好転するから、まどわされずに接しつづけるとよい。
- 人間社会の希望や夢はアスペルガーの人にも共通する。事例を近いものから、少しずつ遠いものへと変えて説明するとよりよい理解にいきつく。
(正解…1,2,3です)
◎事例・II
A・暑さ忘れて陰(かげ)忘れる。
B・意味
苦しい時が過ぎると、その時に受けた恩を忘れてしまうこと。暑さが過ぎ去ると、涼しい日陰(ひかげ)のありがたさも忘れる、の意が由来。
C・設問 用例として適切なものはどれでしょうか?最も良いものを選んでください。
●用例
- アスペルガー症候群は、身近なものにしか関心がない。それは、自分の子どもの頃のある段階の時と同じだ。お世話になった人のことを思い出して関心の距離を伸ばそう。
- アスペルガー症候群は、無呼吸症が遠因だ。自分もそういう時期があって、誰かの助けで乗り越えたことを思い、息の吐き方と声の出し方を教えたいものだ。
- アスペルガー症候群は、ともかく社会参加していることに価値がある。行動のための言葉をベクトルの水準を上げて教えると進歩の可能性がある。
(正解…1,2,3です)
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