おおくの日本人の「世界規模の景気後退」(グローバル・リセッション)のとらえ方は「アジア的の共同幻想」による理解の仕方になっています |
すでにみなさまもよくご存知のとおり、平成20年(2008年)の10月より、「世界規模の景気後退」(グローバル・リセッション)が始まり、12月の押し迫った頃には、日本にもその影響が及びはじめました。
影響の具体的な現象は、日本の輸出型の大企業の営業利益の大幅な減少となりました。そこで日本の輸出型の企業は、設備投資のスピード削減をおこないました。
目に見える形で連日、ニュースで報道されたのは「派遣切り」という言い方で、「非正規社員」との契約打ち切りです。
問題が具体化すると、それまでは抽象的にしか存在しなかった問題の本質が浮上します。このグローバル・リセッションは、日本人の何を問題にしているのでしょうか?今回は、この点からご一緒に考えてみましょう。
『週刊東洋経済』(2009・1月10日号)は、「未来に希望を描けない若者危機」というテーマで特集のリポートをあつめています。ご一緒に考えてみたい具体的な問題とは、次のようなものです。 |
止まらない派遣切り。自力では未来が開けない。
(若年の非正規社員は20代前半で4割を超える。
仕事だけでなく、住みかを失う若者が急増している)
(ルポ・安田浩一。ジャーナリスト) |
- 福岡県宗像市(むなかたし)の稲田大輔(だいすけ)さん、23歳の話。
「2年前に、派遣会社からトヨタ九州の仕事を斡旋(あっせん)された。熊本の高校を卒業して、期間工や派遣で食いつないできた。正社員で働きたくても、働き口がない。トヨタの派遣社員になるとき、担当者から、がんばれば正社員になれる、と力説された」
- 「2008年8月。トヨタ九州は、業績悪化の対応策として、派遣社員800人の契約解除を実施した。私も、契約を解除された。現場責任者にこう言われた。まっ先に辞めてもらうのは、君たち派遣の人だ」。
- 「今すぐに寮を出てほしいと言われた。別の派遣会社に登録して、同じ福岡市内の九州ホイル工業(自動車部品製)で働くことになった。だが、自動車不況のあおりを受けて、すぐに減産体制に入った。2008年12月に契約を打ち切られた」
- 「今、パチンコ店で働く。自分でアパートを借りた。基本給は10万円とちょっと。派遣よりも安いし、休みもない。毎日、ホールで立ちっぱなしの仕事をしている」。
- 福岡宗像市(むなかたし)の不動産業者の話。
「宗像市は、工員さんの街と呼ばれていた。トヨタ九州で働く派遣社員の多くが暮らしているからだ。
トヨタ進出にともない、たくさんのアパート、マンションが建設された。そのほとんどが派遣社員用の寮として使われていた。彼らがごそっとクビを切られたので、今、過剰供給になっている。近隣は幽霊アパートばかりだ。空き家だらけのアパート、マンションになっている」。
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「正社員の既得権という構造的な問題にメスを入れるべきだ」
(人事コンサルティングJoe‐s Labo代表・城繁幸の発言) |
- 「大企業の中高年正社員の多くは、今の若者を甘い、と嘆く。すぐ会社を辞める、と言う」。
「だが、若者は、二極化している。上位3割がキャリア志向だ。能力主義の外資系に殺到している。残りの7割が就社意識がつよい。昭和価値観組という。この人たちが正社員になりたがっている」。
- 「日本は、まだ終身雇用、年功序列型の旧来システムがつよく残っている。賃金は年齢とともに上がる。だが、今、企業はどこも縮小傾向だ」。
- 「この従来型の日本の企業には、安定志向のつよいやる気のない若者ばかりが集まっている。彼らは、世代間格差が開いていることに目を向けない。生涯賃金は、今の65歳の人よりも30%から40%少なくなる」。
- 「日本の企業は、コアの業務を正社員に、単純作業を非正規社員に割り振った。
不況になることを予測するからだ。
非正規社員、30代フリーターは、不況になることを予測しないから仕事のスキルアップができていない。
肉体労働だけでは、体力が衰える50歳代で無職になることを予測しないからだ。行き着く果てにホームレスが待っている」
- 「日本に必要なのは、欧州先進国の雇用形態と同じく、徹底的な雇用の流動化だ。具体的には、正社員の解雇、賃下げをより容易に認めることだ。給与に見合う成果が出せない人間は、解雇し、優秀な若手の給与を引き上げる」。
- 「まず、中高年が既得権を手離すことから始めないと、若者に未来があろうはずがない」。
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「日本の若者には、社会とは弱肉強食という意識が欠如している。若いときこそ辛い体験が必要だ」
(大前研一の発言) |
- 日本では、親が子どもをスポイルしているし、社会も若者をスポイルする傾向が加速している。本来、叩かれても立ち上がってくるのが若者だが、日本の若者には、その意識がない。社会、世の中というのは、弱肉強食の市場メカニズムの世界だ、という知的認識が乏しい」。
- 「国際社会の中で働くならば、20代のなるべく早い時期に、自らを競争に身をさらすべきだ。厳しい環境下で、人生でいちばん辛い思いをすることだ。
貪欲に目標を追えるならば、今の日本では競争相手が少ない。その分、チャンスも大きくなる。失敗できるのは、若者の特権だ。最後のトライが成功するまで、やりつづけることだ」
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「無惨な大人たちに物言う資格はない」
(アニメーション監督・小説家、富野由悠季(とみのとしゆき)の話) |
- 「今の日本では、若い人たちよりも、40代、50代の人々のものを考える力が衰えていて、これが若い人たちに波及している」。
- 「若者が、温室の中で飢えることなく暮らしていけるシステムを作ったのは、親であり、大人なのだ。とうてい温室育ちの子どもが、温室の外に出て行けますか?出て行けるわけないでしょう?」
- 「若者に厳しい物言いをしても彼らはショックを受けていない。言葉に不感症になっている。痛みも何も感じない。子どものご機嫌をとる大人、親が多いから、こうなった」
- 「人には、年をとらなければ化けない大器晩成型もいます。
だが、今の日本では、30代以上の人は思考回路をチェンジできない。自己改革するなら、22歳以下しかない。20代も、後半になると、ほとんどダメだと思っている。22歳以後は、よほどの才能を持った人、もしくは、つねに危機感をもって自己改革にとりくんでいる人の影響を受けている人以外は、希望が持てないでしょう」。
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非正規社員の問題の正しい理解の仕方とはこういうものです |
■『週刊東洋経済』(2009・1月10日号)より、日本の「若者」をめぐる問題のポイントを浮上させてご紹介しました。事例では、「派遣社員」として働いてきた23歳の男性のケースです。日本の大企業は、輸出主導で収益を得てきているので、いきおい、製造コストの占める割り合いが高くなるという背景を映し出すのが「非正規社員」の問題です。
市場を海外に負っているということは、日本の国内の市場は放置されてきたし、現在もなおそうであるということです。
その典型が「非正規社員」という構造です。賃金が安い、アパートを独力で借りて生活を自立させないということは、必ずしも「非正規社員」に限った問題ではありません。
ここには、「企業」と「個人」の関係の問題があるのです。生活をしていくことと、働くこと、そして働いて収入を得ることが切り離されて別々のことであると企業は考えているし、働く人も考えています。この「別々のことである」とは「とらえていない」のが「城繁幸」のいう「3割のキャリア志向・能力主義・外資系に殺到する若者」です。
「城繁幸」は、「2008年に卒業した東大理工系修士の20%が外資系に就職している」とのべます。
この「外資系に殺到している3割のキャリア志向の若者」は、「欧州先進国では、雇用形態による給与の差はない。正社員でも、異動による仕事の内容の変化で給与が上下する」(城繁幸の話)という仕事観が前提になっています。このことは、平成20年も終わる頃、NHKテレビで、「オランダ」のケースが紹介されていたので、観た方もおられることと思います。「オランダ」の「派遣社員」は、企業の正社員と給与は同じです。不況になると正社員の給与が下がり、非正規社員にも仕事が「ワークシェアリング」されています。また、職能訓練のための「教室」も用意されていて、「将来を考えるとこのままでいいはずがない」と考えた人は、アフターファイブ以降、自転車やバイクに乗って通っていました。「認定」を受けた人は、正式に「正社員」に登用されていました。
日本の場合はどうか?というと、ケースの事例でご紹介しているとおり、「まじめにがんばれば、いつかはトヨタの正社員になれるよ」という派遣会社の担当者の言葉を信じて、「その日」を待っています。
「何ていうか、もう、派遣とはこういうものだと諦めるしかなかったですね」
「自分は、無力だなあとつくづく思います」
「今、基本給は10万円とちょっと。休みもない。立ちっぱなしの仕事は長つづきしそうもない。結婚を約束した彼女がいるが、夢のまた夢となって、涙とともに消えかかっている」
(福岡市宗像(むなかた)市。稲内大輔(だいすけ)さん・23歳の話)。 |
家の中は一人練習の場という「個人幻想」が確立されていないのが多くの日本人 |
「働くこと」と「自分の生活」とが別々のものと分けられて、分離してとらえられていることに注目していただく必要があります。「生活」とは「衣・食・住の場」のことです。
「家の中」という空間性の世界のことです。人間の身体は、「21歳」をピークにして老化していくことは、すでに、ポルソナーレのカウンセリング・ゼミでも説明しています。「老化」とは、「神経系の細胞」が徐々に死滅していくことです。「廃用萎縮」という、「使わない筋肉は減少していく」という法則のとおり、廃用萎縮にともなって、必然的な因果律にしたがって「脳」も「五官覚」の「神経系の細胞」も死滅していきます。すると、自分の身体の「老化」のプロセスを想定して、日々「家の中」で「一人練習」として鍛えて訓練する必要とその有用的な意義が「生活の中」にあることが分かります。ポルソナーレは、「心や精神は、老化しない」と説明しています。それは、「家の中で一人練習として訓練した場合に限る」という条件がつきます。「心や精神」とは「言葉の能力」のことです。「精神」とは、「言葉」によって自分と他者の「行動対象」の現実をどのように理解するのか?という表現的な意識のことです。「心」とは、「自分自身」の生理的身体のしくみを、「他者の生理的身体」をとおしてどのように理解するのか?という内省的な意識のことです。これらの「心・精神」は、「生活の仕方」によって退化もするし、発展的に発達もすることは、よくお分りのとおりです。それは、「脳の働き方」の「記憶のソース・モニタリング」のメカニズムとして、あらわれます。「訓練なき脳の働き方」はどうなるのでしょうか。 |
「心の病いで休職中の学校の先生、
15年連続で最多更新」 |
- かつて、学級運営ができない教員を「M教師」と言った。
当今は、「心病む先生」が激増。文部科学省によると、平成19年度に精神性疾患で休職した公立学校の教職員は「4,995人」。15年連続で最多記録を更新した。
- 調査対象の公立校の教職員は92万人。19年度は「4,995人」が精神性疾患により病気休職した。大半は、「うつ病」である。
- 「職員どうしでうまくコミュニケーションがとれない」「指導内容の変化に対応できない」
「30代前半の女性教師の例。同僚の男性教師が結婚した。がっくりして、自律神経失調症になった」。
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「大学院まで出たけれど、半分はフリーターになる」 |
- 日本は、就職難になった。大学のさらにその上、大学院卒の半数が定職に就けない。
民間企業に就職できる確率は、ほぼゼロになる。
- 就職は資格で勝負するとしてTOEFLのための勉強をしている人、医学部生、博士号取得、の人などの就職率は50%強。
すると、院生の半分は就職先の無いフリーター状態となる。
これ以外にも、死亡、社会から消えていく人などが10%近くいる。
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「家出人は「8万8千人」。
「65歳以上」だけが増えつづけている」 |
- 2007年の「家出人」は「8万8千89人」。
(警視庁調べによる)。
前年に比べて「1・3%」減少している。しかし、「60歳以上の人の家出人」は、「5・1%」も増えている。2007年は「1万6717人」が家出した。しかも、毎年増加しつづけている。
- 「あくまでも「捜索願」が出されている件数の数字。実際の家出人はもっと多いと思われる」(精神病理学者・野田正彰の話)。
- 「転職して収入が激減する。やがて職がなくなる。やむなく家出している」
「収入がないと、自分の不甲斐なさを責める。家族に合わせる顔がないと耐えきれず家出する」
「ネットカフェ難民といえば若者中心と思われているが、実際は、50歳以上の人がかなり多い」(岡本祥浩。中京大政策学部教授の話)。
「子どもが独立した後、家出してホームレスになるケースもある」。
「60歳以上の自殺者は、1万人以上と、圧倒的に多い」(警視庁の自殺統計による)
(『週刊新潮』2009・1・15号「恐ろしい日本の数字」より)
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派遣のルールを自己解釈する日本人の脳の働き方の特性 |
■日本人は、「派遣社員の法律」を見ても、「企業は、いつか、どこかで調整のための安全弁」として「非正規社員」に単純労働を割り振っているという現実を「言葉」によって学習していないことの結果の実例をご紹介しました。これは、単に「非正規社員」だけの問題ではなく、全ての働く日本人の男性、女性に該当する問題です。「働くこと」と「生活をすること」が全く区別して分けられていて、「家の中で、自分の数年後の働くことと生活すること」を「推移律」としてイメージできないということが日本人の共通の脳の働き方になっています。これは、「脳の働き方」でいうと「X経路」中心の「イメージスキーマ」(アメリカの認知言語学者ルイコフの定義)です。
「X経路」とは、脳のブローカー言語野・3分の1のゾーンを働かせる「視覚の知覚神経」のことです。自律神経の「副交感神経」の恒常性(ホメオスタシス)で恒常的に「記憶した言葉のイメージ」が表象(ひょうしょう)されます。
ブローカー言語野の3分の1のゾーンは、「側頭葉」に位置していて、「ウェルニッケ言語野」の「触覚の認知と認識」の言葉と相互性をもって働いている記憶の中枢神経群です。
すると、「メタ言語」としての言葉(いわゆる無意識のものの考え方のことです)は、次のようなものになるでしょう。
- 自分が「見たいもの」しか見ない。
- 先入観で、ものを見たり考える。
- 自分の主観的な感情を根拠にして、「満足したり、安心する」。
- 自分が「予期したとおりに、過去の記憶を変形させる」(これが記憶のソース・モニタリングになる)。
- つねに自分の記憶が変わるので「思い込み」で自分だけが喜ぶネーミングをおこなう。
この結果、「肯定性バイアス」(ものごとの否定面を見ない。無関係な二つのものをむすびつける)といった「多元的無知」や「バーナム効果」の「行動」のための言葉を産生しつづけます。これが、人間関係の場面では「前向性健忘症」(新しいことを憶えられないこと)、「逆向性健忘症」(相手の話したことを前提のテーブルの上に置いて、会話することができない。だから、質問しない、調べない、連絡しない、などの「行動停止」を起こして、線状体から不安のイメージを恒常的に表象しつづけるようになる)といった「脳の働き方」を特性とするようになるのです。これが今の日本人の抱える困難の真実の姿です。
では、このような日本人の若者にとって、平成20年(2008年)10月より始まった「グローバル・リセッション」(世界規模の景気後退)とは、どういう意味をもつのでしょうか。脳の働き方のソフトウェアのメカニズムからとらえてみましょう。
吉本隆明氏の『共同幻想論』(角川ソフィア文庫)には、次のように書いてあります。 |
『共同幻想論』
(「母制論」吉本隆明、角川ソフィア文庫) |
- 人間は、社会のなかに社会をつくりながら、じっさいの生活をやっており、国家は共同の幻想としてこの社会のうえに聳(そび)えている。
- 国家は、共同の幻想である。
風俗や宗教、法もまた共同の幻想である。名づけようもない形で、習慣、民俗、土俗的信仰がからんで、長い年月につくりあげた精神の慣性も、共同の幻想である。
- 人間が共同の仕組み、システムをつくって、それが守られたり、流布されたり、慣行となっているところでは、どこでも共同の幻想が存在している。
- 国家は、もとをただせば、一定の集団をつくっていた人間の観念が、しだいに析離(アイソレーション)していった共同性である。
- なぜ、わたしたちは、国家という概念に、同胞、血のつながりのある親和感、なんとなく身内であるものの全体を含ませてしまうのか。
(以上は、角川文庫版のための序より)。
- 日本の「久高島」には、日本列島の「母系制社会」のあり方の原像をもつ信仰がある。
ここには、水田稲作が定着する以前の時代の「共同幻想」と「対幻想」とが同致する「母系制社会」の遺制が想定される。
- 「母系制社会」という「共同幻想」は、個々の男、女への性交の禁止の意識が根拠になって支えている。
「男と女の性」は「対(つい)なる幻想」という。この「対幻想」は必ずしもじっさいの性交を意味しない。「対幻想」がその初めにあった「共同幻想」とむすびつくときに「母系制社会」となる。
- 日本の「母系制社会」は「姉妹」が神権をもち、「兄弟」が政権を掌握するという形態をつくった。この「姉妹」の宗教は、「シャーマン教的な性格」をもつ。
- 「姉妹」と「兄弟」の関係には、性的な関係の意識があった。
この性的な関係意識は「自然的な性の行為」を介在しない「心的な性」である(対幻想である)。
これが「母系制社会」の共同幻想をつくった。
- 「父親」は、無視されるか、尊崇されて遠くの位置に追いやられる。
(以上は、「母制論」よりのリライト・再構成)
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「幻想」ということを理解すると「自立した主体」が確立します |
■「幻想」とは、何のことでしょうか。
「幻想」とは、人間の「観念」のことです。人間の観念とは、自律神経の恒常性(ホメオスタシス)の働きのメカニズムによって、いつでも、どこでも、寝ているときも「知覚した記憶」をイメージとして思い浮べつづけている、というときの「表象」(ひょうしょう)のことをいいます。この「観念」が「幻想」と呼ばれるものに変わるのです。どのようにして変わるのか?というと「言葉」によってです。ただし、「言葉の意味」が「幻想」をつくるのです。人間は、「言葉の意味」によって「行動する」ので、「12時になったら食事をしよう」と「意味」を決めたときのイメージされる「観念」を「幻想」といいます。だから、「言葉の意味」にもとづく「行動」を「3人以上の人間で合意する」ときに「共同」の「幻想」といいます。
なぜ、「幻想」という言い方をするのか?というと、人間の脳の中に思い浮ぶ「行動のルールやきまりという約束ごと(秩序)」は、「行動する」ということの可能性と、「むすびつき」によって、「脳の外にある現実」とぴったり一致する、ということを指して「幻想」といいます。日本にも「グローバル・リセッション」が波動のように押し迫っていますがこの、「世界同時不況」の「現実」の意味は、ひとりひとりの人間の個人の幻想に見合っているのです。それは、いろいろな学者やもの書きの書く発言を見ればよく分かります。
彼らは、自分が「意味」としてとらえた「行動の対象」(知覚した経験の範囲)の個人の幻想を「これが不況の内容だ」と思い描いているにすぎません。ポルソナーレのように、日本人のもつ「依存」や「甘え」を「共同幻想」の実体としてとらえる人は誰もいません。 |
「母系制の共同幻想」の理解の仕方 |
吉本隆明氏は、「母系制社会」のルーツは「対幻想」にあると説明しています。
人間の性は、「生理的身体の性」と「自分の性の相手は、この人だけだ」と特化する意識の心や精神の「性」との二つで二重に成り立っています。
「母系制社会」は、女性のもつ「性の意識」をベースにしている「共同社会だ」と説明されています。「女性のもつ性」とは、視床下部の「視索前野」を中心にした「メタ言語」のことです。
「人間関係の能力」と「言葉の能力」の二つのことです。それは、子どもを産み、育て、やがて成長して、自立して遠くに行く、ということを対象にした「メタ言語」です。女性は、「母親」となったとき、「自分と同化している」「自分と一体である」「遠くに離れても、自分の血縁を地つづきでリンケージしている」という「メタファ」をつくり出します。これは、全ての女性に普遍的な「性の意識」です。これらの「メタ言語」が全ての女性に共通のものであるとするならば、「思う」「語る」「行動する」ということの内容となります。言葉の意味(原義)として了解され合うということです。このようにしてつくられた共同社会が「母系制社会」である、と吉本隆明氏は説明しているのです。男性は、女性の生み出す「自己と同化している」とか「自分と一体である」といった「メタ言語」を、女性から学び、教わるしかありません。男性は、想像するしかない、というので「母系制社会」の中では無視されるか、食物を運んできたり、時々、性をして女性を喜ばせることもあるので「ホメ」て遠くの位置に追いやって一応大切にする存在だ、といっています。 |
日本人は今もなお、「母系制社会」(アジア型共同幻想)にどっぷり首まで浸っている |
問題になるのは、「母系制社会」とは、「遠くにいる子ども、母親を自分と同化していて、一体のあるものとして合意し合う」ということです。これは「ブローカー言語野・3分の1のゾーン」の「X経路」による認知と認識の表象(ひょうしょう)です。吉本隆明氏はこのような「対幻想」をベースにした「共同幻想」(つまり母系制の共同体や社会)のことを「アジア型の共同幻想である」と定義しています。
すると、今の日本人の若者も老人も、「X経路」を中心に生活をしているので「母系制社会」(アジア型の共同幻想)の中でものを考えているし、行動していることになるのです。この点が、今の日本人のひとりひとりの個人的な困難を生み出している根拠の根源であるといえましょう。
日本人は、「国家金融資本主義」と「輸出型の製造業の第二産業」という「西欧型の共同幻想」を自らの「ブローカー言語野の3分の2のゾーン」に漠然と表象して思い描いています。派遣にかぎらず、正社員の90%は、この「西欧型の共同幻想」の中に出かけて行き、夕方になれば「アジア型の共同幻想」(母系制社会の幻想の共同体)の中に戻ってきて、「X経路」を働かせて、「自分の仕事は終わった」と依存し、甘えていることになるでしょう。このような日本人のひとりひとりに、「グローバル・リセッション」の波動が迫ってきています。その結果『週刊新潮』にルポされていたような「大学院を出ても半分の人は仕事がない」「7割の非キャリア意識の人は、明日は我が身と怯えて仕事をしている」「50歳以上になると家出か、死ぬことを考えている」という状況を激発させています。
対策は、言葉の意味を正しく憶えるための脳の働き方をトレーニングすることです。
今回も「学習モデル」のためのエクササイズをご提供します。 |
エクササイズ
■事例・Ⅰ |
- 「氏(うじ)より育ち」(故事・ことわざ。概念、数詞に当る)
- 意味(『タイル』に相当する)
家柄とか血筋よりも、人が育つ環境や教育の方が大切だ、ということ。教育、育つ環境の方が人柄やその人の性格に大きな影響を与えることをいっている。
■設問
「氏(うじ)より育ち」の用例として適切なものはどれですか?
■用例
- 会社の後継者は、氏より育ちというから、社長の子どもよりも社員の中から有能な人を選んだほうがいい。
- 有名大学の大学生に大麻の逮捕者が多いのは、「氏より育ち」の好例だ。
- 日本の女性は、氏より育ちを重視して、親の言いなりのお見合いでは結婚しなくなった。
(注・正解は(1)(2)(3)とも) |
■事例・Ⅱ |
- 「少年老い易く、学成り難し」(故事、ことわざ)
- 意味(『タイル』に相当する)
月日がすぎるのはたいへん早い。若者もすぐに年をとる。だが、学問を修めるには時間がかかる。時間を惜しんで勉学に励まなければならない。このあとに「一寸の光陰軽んずべからず」と続く。
■設問
「少年老い易く、学成り難し」の用例として適切なものはどれですか?
■用例
- 「少年老いやすく」というから、若いうちにいっぱい恋愛をして男女関係の勉強に悔いを残さないようにしなければならない。
- 何ごとも運命、ということがある。中年になったら勉強よりも、楽しく暮らすことを目標にした方がよい。
- 非正規社員の人たちは、「少年老いやすく」ということを知らなかったために、キャリアアップの機会をなくしたと思える。
(注・正解は(3)とも)
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■事例・Ⅲ |
- 「商売は草の種(たね)」(ことわざ、故事)
- 意味(『タイル』に相当する)
おびただしい種類のある草の種のように商売(ビジネス)の種類も尽きることがない、ということである。
■設問
「商売は草の種」の用例として適切なものはどれですか?
■用例
- 商売は草の種だ。ホームレスになるくらいなら、家を一つずつ訪ねて、いらないものをもらって路上で売るのも一計でしょう。
- マンガ好きの引きこもりの人が、路上でマンガ読み聞かせをやっていた。
聞いた人がお金を渡していた。商売は草の種だ。
- ある人が、会社の住所を使って投資のサイドビジネスをやって発覚した。商売は草の種の好例だ。
(注・正解は(1)と(2)です) |