「世界同時不況」についての正しい理解の仕方とは、こういうものです |
新聞の報道によれば、「アメリカ発の金融システムのバブルの崩壊」の影響で、「世界同時不況」がおこって、全世界にデフレ型の不況が広がっているということです。みなさまも毎日、この「世界同時不況」についてのニュースを目にしたり、耳にしておられることでしょう。
では、今、世界の各国に広がっている「不況」とは、どういうものでしょうか?分かりやすいモデルケースをあげてご説明します。
まず一つめのモデルケースは、「アイスランド」です。『エコノミスト』(2008・12・9号)は、「アイスランド」の破綻の危機について、こんなふうにリポートしています。 |
アイスランド |
- アイスランドは、イギリスの北西部、北極圏の近くにある。人口は30万人の小国だ。
- アイスランド政府は、9月29日、グリンメル銀行の株式75%を取得して、政府の管理下においた。10月になると他の大手銀行の2行を管理下において「金融非常事態」を宣言した。
その後、「外国為替市場」は、機能不全に陥っている。
- アイスランドの政府は、IMF(国際通貨基金)や各国の政府に支援を求めた。
- 中央銀行は、「通貨」(クローナ)防衛のために「政策金利」を一気に6%も上げて、19%とした。
- 11月19日。アイスランドは、IMFや北欧諸国から「46億ドル」(約4400億円)の支援を受けることで合意した。この「アイスランド危機」を端緒に、ハンガリーなど他の欧州諸国も次々にIMFなどの支援受け入れに陥った。
- アイスランドは、もともと漁業がおもな産業だ。もともと、貧しい漁業国だった。
しかし、21世紀に入ってからアイスランドの経済は大きく躍進した。2003年に火山熱を利用した「地熱発電所」をつくった。その電力を使って「アルミ精錬所」を建設した。その投資総額は、GDPの3分の1強にのぼった。
- 次に「金融の自由化」と「銀行の民営化」をおこなった。銀行は、事業家と二人三脚で、北欧、イギリスに進出した。「外貨資産」を獲得しつづけた。アイスランドの銀行は、「株式」と「不動産」の所有が多かった。この「株式」を担保にして「融資」をおこなった。
- 突然の「経済発展」は、「賃金上昇」と「インフレ」を進行させた。「貯蓄不足」から、「GDP」比2割強の「経常収支赤字」が生まれた。
- アイスランドは、「インフレ抑制」を目的として「高金利」の「外債」を発売して「外国で人気商品」となった。通貨高が持続した。
低金利のスイス・フランや円建ての住宅ローンが普及し、経済はさらにバブル化した。中央銀行は、利上げで通貨防衛に動き、「クローナ人気」を高めて、不均衡がさらに拡大し、増幅した。
- アイスランドは、国の経済規模を超えて「外貨建て」の資産、負債を積み上げた。
この大胆な「レバレッジ」から「国全体がひとつの巨大なヘッジファンド」と言われた。
- 2008年の初めから、「クローナ安」がじわじわ進んだ。今年の秋(2008年)に「流動性危機」が起こる。
次に、「支払い能力の危機」に移る。
これが「金融危機」と「実体経済の悪化」の負のスパイラルを加速させた。
- アイスランドは身の丈(たけ)を超えたレバレッジの大きさが半端ではなかった。銀行資産が2007年末で国内総生産(GDP)の約10倍、対外総債務は、5・6倍、純債務は2・4倍、家計の負債は「可処分所得」の2・1倍、という状況にあった。
- 「IMF資金」の獲得後も、「クローナ安」に歯ドメはかかっていない。
「2桁のGDPマイナス成長」と「インフレの進行」、「失業の急増」など、誰も見たことも経験したこともない未曾有(みぞう)の経済危機が口をあけて待ち受けているといわれている。
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脳の中でつくられる「信用」の意味を膨張させたことが「不況」の原因 |
■この「アイスランド」のパターンと同じ経済の危機にぶつかっているのが「アメリカ」「ウクライナ」「インドネシア」「ブラジル」「韓国」「メキシコ」「ポーランド」「ハンガリー」などです。「アメリカ」は、自国通貨でもあり、「ハードカレンシー」でもある「ドル」を世界各国から引き上げているので、「経済危機」を表面化させていません。
「アイスランド」の経済危機に見ることができるのは、「GDP」(国内総生産)を超えて、「資産」や「債務」をふくらませつづけてきた、という「信用の膨張」です。これは、「金融商品」(高金利、ローン、証券、外貨の通貨高など)を増やし、資産にし、負債を増やす、という現象としてあらわれています。ひとくちにいうと「期待価値の膨張」というべきものです。あくまでも、「価値」は実体ではなくて、いずれ「実体の価値」に置き換わるだろうと「期待されている幻想としての価値」です。
「GDP」(国内総生産)が商品の生産と販売、そして、確かな価値をもたらすサーヴィスといった「実体経済」が生み出したものならば、国民のひとりひとりの成長となり、その国の成長となって、負債もある時点で「資産」に変化するでしょう。これは、「国」というレベルで見ると巨大すぎて分かりにくいかもしれません。「脳を活かす勉強法」とか「脳の前頭葉を発達させる」といった名目で「暗記」や「丸暗記」をすすめる「サーヴィス」に置き換えて想定してみましょう。
「頭が良くなるだろう」「収入が増えるだろう」「いい仕事に就けて、一生、生活が安定するだろう」とイメージすることが「期待価値」です。
そして、「暗記」と「丸暗記」だけをくりかえして勉強したり、仕事に取り組むと、いつか、どこかで必ず「行動が止まる」という事態が起こります。
「暗記」や「丸暗記」は、憶えている言葉の範囲に限定した「行動」しかできないので、信用をなくしたり、不信をもたらします。
アイスランドが「危ういコンフィデンス(信頼)の桜閣」に支えられた見せかけの繁栄と言われつづけてきたことと同じです。
「金融商品」は、どこまでもつづけていくと単なる「バブル性の商品」でしかなくなります。同じように「実体の価値」の証明とか説明、および実証がないのに「暗記する力こそが、頭の良さの全て」とアピールする商品(サーヴィス)も「バブル性の商品」です。
このような「価値づけ」を権威や宣伝や法律、行政の力で与えたときに「バブル性の商品という経済力を支えるシステム」がつくられます。これが「国家バブル資本主義」の「共同幻想」というものです。
「アイスランド」とは対照的に、「世界同時不況」の影響を経済危機を招くほどには受けていない国があります。
「北欧・スウェーデン、フィンランド」です。『エコノミスト』(2008・12・9)のリポートによれば、次のような経済活動をおこなっています。 |
北欧・スウェーデン、フィンランド |
- 13世紀にスウェーデンの「ビルカ」で起草された『バイキングのビジネスガイド』には、こんなことが書かれている。「いったん陸に上がれば礼儀正しくしよう」から始まり、「人脈のつくり方」「情報の収集のコツ」「商品管理の注意点」「リスクの分散の方法」などだ。異文化に溶けこむためのテクニックが教えられている。
- スウェーデンをはじめ北欧人は、冬は極寒になり、原生林におおわれた不毛の地で暮らしている。座して死を待つくらいなら、危険を冒しても海洋の外に出ていくべきだと彼らは考えた。
- 彼らは、何ものにも隷属しない「自主独立の精神」をもつ。
かつてバイキングがパリを包囲したとき、フランス人が聞いた。「君たちの王は誰だ?」「我々には王はいない。我々は皆、ひとりひとりが平等である」。このエピソードは、自主独立の精神を尊ぶバイキングをよく分かる話として有名だ。
- 「バイキングの社会」は、権力格差が極端に小さかった。王といえども、ひとたび「無能」とみなされれば「自由農民」以上が参加する「シング」(民会)においてたちまち罷免(ひめん)されてしまうほどの「民主的な社会」を形成していた。
- 「チームのリーダー」は「偉い人」ではない。「チームをまとめる調整役」であることが多い。一方的に命令を出すのではなく、つねに「メンバー」の意見を聞いて「コンセンサス」を得ることに腐心(ふしん)する。
- 勢い、「組織」はフラットにならざるをえない。「フラット」とは、上下関係がなく、同じ立場で平等意識をもって対等に関わるという意味だ。平板な面に互いが向かい合って、互いを尊重し合う、という社会的な人間関係になる。
この「フラットな小さい集団」をボートに喩えると分かりやすい。
無数の小さなボートが、共通の目的達成のために集まった大きな集団、それが「バイキング」の正体である。「大きな集団」とは「国家」のことだ。
- 現代の「北欧の企業」もこの「バイキング」のものの考え方のうえで運営されている。「ピラミッド型の組織」は無い。「ピラミッド型」をつくる階層を、いくつもの段階につみ上げるという発想がない。組織が大きくなると、たちまち「小さな組織」に分割して、「権限」を委譲する。ヘッドオフィスは極小化しつつ、「中間階層」は極力、省く。これによって実現するのが、スピーディな「意思決定」だ。
「上層部」が立案して決めた戦略を「下部組織」や末端の人間に落すというのではない。「現場の判断」で、現実の実情に合った戦略を、即時に実行する。
- 北欧企業は、進出する国では謙虚な姿勢でビジネスを進める。「自分たちのやり方ではうまくいかない」と分かると、潔く方向転換する。相手に合わせた方策をとる。
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北欧企業の仕事の仕方と戦略 |
- 一九六五年。北欧企業は、日本に「テトラパック」の市場を開拓した。これまでに6年か7年の歳月がついやされた。この間、彼らは辛抱強く、自社製品を日本の文化に合わせるように努力した。
- 一九七四年。「イケア」は、日本進出を果したが、一九八六年に、いちど撤退した。
再び、二○○六年に再上陸する。こんどは、「配送、設置、組み立てなどのサービスを付加する」など、日本人のニーズに合わせた展開で成功を収めている。
「イケア」は、家具専門のディスカウントストアをオープンした。
製造コストが安く、客が自分で持ち帰りできる「折り畳み式の家具」を開発した。
「イケア」は、他の北欧企業と同じように「自社工場」を持たない。世界中の「サプライヤー」(供給者)に商品の製造を委託している。
だから、彼らは「不況」には非常に強い。不況になれば、「出店コスト」や「仕入れコスト」が下がる。「イケア」にとって今の「世界的な景気=リセッション」(景気後退)は「成長の絶好のビッグチャンス!!」と映っている。
- 「H&A」(ヘネス・アンド・モーリッツ)は、一九五○年に「婦人服」の店をオープンした。メーカーの「お仕着せ」を嫌い、独自にデザインした商品を投入した。
創業者のアーリン・パーソンはもともと「チーズの販売」をおこなっていた。
- 二○○八年の秋。スウェーデン発祥の巨大カジュアル衣料チェーン「H&A」は日本に上陸した。
9月13日、日本1号店を銀座にオープンした。前日から徹夜で並ぶ人が続出し、この日は5,000人が押し寄せた。いまだに行列が絶えない。
11月8日。2号店を「原宿」にオープンした。この「消費不況」の中を2,000人が押し寄せた。
人気の秘密は、「最良の価格でファッションとクオリティを提供する」というコンセプトだ。
著名デザイナーと共同企画した商品を、「100ドル」(約一万円)で売る戦略だ。「ニューヨーク5番街」をはじめとする世界中の都市で大成功している。
「H&A」は、現在、世界33ヵ国に1,500以上の店舗(てんぽ)を展開している。日本では、2009年に「渋谷」と「新宿」に新店舗をオープンする予定という。そのビジネス展開のスピードは尋常ではない。
- 「北欧」は、世界的な「エクセレントカンパニー」を多く輩出している。
「家具のイケア」「自動車のボルボ、サーブ」「携帯電話システムのエリクソン」などだ。「携帯電話端末」で世界最大のシェアをもつ「ノキア」は「フィンランド」生まれだ。
- 巨大な資本力を背景に、力づくで世界市場を支配しようとする「米系企業」とは対照的だ。
- 「北欧企業」は、独自の技術、サーヴィスを武器に、世界市場に乗り出す。「ダイナマイト」を発明したアルフレッド・ノーベル、「ボールベアリング」を発明した「SKF社」の祖のスヴェン・ウィンクウィスト、「飲料用紙容器テトラパック」を開発したルーベン・ラウジングなどだ。
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「ひとりの人間の観念」のつくられ方に生き方の根拠がある |
■ここにご紹介した「北欧・スウェーデン、フィンランド」は、先にご紹介した「アイスランド」と対照的であることがよく分かるように、要点を再構成しています。
「ひとりの人間」の「観念の世界」に、どういう「言葉の意味」が学習されて、記憶されているか?に注目していただくことができます。
人間は、言葉によって行動します。もうすこしげんみつにいうと、「言葉の意味(原義)によって行動する」のです。この「言葉の意味(原義)」が、「3人以上の人間」で了解されて、合意されるときに、「共通の意味」になります。「共通の意味」とは、ルールとか決まりのことです。抽象化すると「秩序」です。
「社会の秩序」の「秩序」となって「行動の仕方」になることを「規範」といいます。
スウェーデンもフィンランドも、そして「アイスランド」も「ヨーロッパ」の地形に位置しているのでひとりひとりの人間は、「西欧型の脳の働き方」を身につけています。「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」で「言葉の意味」を学習して、記憶しています。
スウェーデン、フィンランドとアイスランドのひとびとの違いとは、何でしょうか?
「アイスランド」のひとびとは、「外貨」(おもにドル)を「価値」(言葉の意味)として「3人以上の人間」の間で了解して、合意しました。「外貨」(おもにドル)を増やし、資産化し、さらにこれを担保にして負債を増やすことが個人と社会の豊かさになる、と考えました。しかし、「外貨」(おもにドル)が急激に引き上げられると、自国の通貨には「物」や「サーヴィス」の実体経済の裏打ちが無いことが見透かされて海外から原材料を輸入したり、また、自国の商品を輸出しても「コスト割れ」するような価格でしか売れないので「収入」が激減してしまっています。
一方、スウェーデン、フィンランドは「外貨」と「実物」(商品)とを同じ価値と見て、これを「意味」としています。「外貨」(必ずしもドルとは限らない)と「自国の通貨」と、「実物」の「三者関係」をつなげて記憶しています。ここでは、「価値」と「信用」とを分離して、「信用」だけを「期待価値化」して膨張させる、ということはおこなわれていません。
これは、遠山啓(ひらく)が『水道方式』で教える『タイル』が「自国通貨」に相当し、「商品」(サーヴィスも)が『概念』に当っていて、外貨(世界各国の通貨)が「ゾウ」「リンゴ」「ミカン」「スズメ」などの『実物』に相当すると考えることができます。ここには、「信用」とか「価値」ということの「意味」を、ひとりひとりの人間がしっかり学習して、自分の責任で理解して、これを「3人以上の人間」で合意し合う、という「脳の働き方」があります。 |
日本人の「脳の働かせ方」の典型とはこういうものです |
では、日本人の場合はどうなるのでしょうか。
平成20年12月10日付の日経の報道に、「文部科学省」が「TIMSS」(国際数学・理科教育問題動向調査)の結果を発表しています。
対象は、中学生と小学生です。
日本人の正答率の低かった問題とは、次のようなものです。「たて3センチ、よこ7センチ」の長方形の図形を見せる、この図形について、正解を選ばせる、という問題です。
- 7センチ
- 10センチ
- 20センチ
- 21センチ
の「解答」のうちからどれか一つを選ばせた結果、④と答えた生徒が53パーセントであった、ということでした。
この「学力の調査結果」について日経の「社説」(12月11日)はこう書いています。
- 課題は多い。小4の問題で日本は、国際平均を大きく下回った。図を見ただけで「面積を問われた」と思い込んだようだ。
- これは、ふだんの授業で決まりきったパターンを憶えこまされて刷り込まれて、条件反射のように解答を導いた(行動した)せいだろう。
- 「考える力」「応用力」よりも、問題を機械的に、すばやく解く能力を偏重しがちな教育現場の実態を映している。
- 調査では「勉強は楽しいか?」と問いかけている。小4の理科を除いて「楽しくない」……数学40%、理科59%と国際平均を下回っている。こうした傾向は、他の学力調査でも浮び上がっている。
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ブローカー言語野・3分の1で丸暗記すると「病的な意味のイメージ」をつくる |
■日本人は、ブローカー言語野・「3分の1」のゾーンで、言葉を「記号」として憶えています。
遠山啓(ひらく)の教える『水道方式』の『タイル』に相当する「言葉の意味」を学習して憶えないか、憶えてもやはり「丸暗記」「棒暗記」で記憶します。
「丸暗記」「棒暗記」とは、「行動の完結」のことです。X経路の働きによって可能です。「ブローカー言語野・3分の1のゾーン」はX経路が支配することはすでによくご存知のとおりです。日本人は、「母親と子どもの愛着の関係」の中で、「子ども自身が動く」という『同期』を母親の生理的身体と『同調』させるという「対人意識」を継承してきています。これが「子ども自身」は自分の生理的身体と母親とはぴったりと地つづきで結びついているという「認知」と「認識」の仕方のベースになっています。「見る、見られる」という「クローズアップの視覚のイメージ」を「ブローカー言語野・3分の1のゾーン」に表象させる、という「脳の働き方のメカニズム」になっています。
すると、「金融商品のバブル化」の時期と、「金融システムの信用の収縮とその後の世界同時不況」の現実に直面すると、次のような「意味のイメージ」を「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」に表象させるでしょう。日本人といえども、「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」は、それ自体は正常に働いています。「今年も、恵比寿の駅前のクリスマスツリーはきれいに輝いているね」とか、「12月になって、銀杏(いちょう)の葉が黄色く紅葉して、やがて散り始めました」などのような光景は、ブローカー言語野・3分の2のゾーンの「Y経路」の認知と認識によるものだからです。
バーナム効果……トカゲの脳の中隔核のドーパミンが分泌させるイメージを思い浮べる。
「金融バブル」のときは、人間関係にシバられなくて自由でいい人生になるから、このまま好きなことをやって、好きなことに出会うまで自由に暮らしていこう、と考える。
「世界同時不況」の今は、突然仕事がなくなるとか、仕事先からリストラされるなんて夢にも思わなかったよ。これは、何かの間違いではないかな?というイメージを表象(ひょうしょう)させる。
多元的無知……ブローカー言語野・3分の2のゾーンで、自分ひとりで解釈した後づけの意味のイメージを思い浮べる。たとえば次のようなイメージのようなものだ。
「日本人だって、世界のどこの国の人だって、政府とか自治体が、支援や援助を受け取っている。この際、自分の好きなことに没頭してやりすごすしかないね」
「いよいよとなったら諦めるしかない。だいたい今までが諦めの人生だったし。これ以上悪いことが起こっても、今まで以上に悪いことにはならないように見えるよ。テレビでは、みんな明るくハツラツとしているしね」
ここにみているのは、「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」に「他者の号令、命令の言葉」を「言葉の意味」として思い浮べてきた日本人に特有の「行動パターン」です。
吉本隆明氏は、このような「行動パターン」を「アジア的な専制デスポット」と指摘しています。
「専制デスポット」とは、ちょうど「帽子」(ぼうし)のようなものです。この「帽子」が「意思」をもっていて、日々、保護してくれたり、世話をやいてくれる、という喩的なイメージを想像してみましょう。
この「帽子」が、風に吹かれてどこかへ飛んでいった、というのがおおくの日本人にとっての「世界同時不況」とその影響の経済社会のリアルな現実です。 |
史上最強の知性のつくり方とはこういうものです |
このような脳の働き方を変えるには、まず遠山啓(ひらく)の『水道方式』による「数」(かず)の学び方、教え方を実施におこなってみることが有効です。「ブローカー言語野・3分の2のゾーン」の働かせ方のモデルになるからです。 |
遠山啓(ひらく)の「水道方式」による
数(かず)の教え方のプログラム |
エクササイズ・Ⅰ
■お花を飾る(5(ご)の二者関係を教える学習のカリキュラム |
- 「お花を飾る、みんないい子、きれいなことば、みんないい子」と歌を歌う。
花型(色紙を切り抜いて作る。造花でもよい。同じ形の花にする)を、「5個」だけ用意する。
「この花は、なんでしょうねえ」と語りかける。
この後、「花の数(かず)は「ご」(5)です」と教える。
- そして、チョコレートタイルを「一対一対応」させる。
「チョコレートタイルの数(かず)はいくつですか?」と問いかける。
「ご(5)」の答えを期待する。
- 次に、この「バラタイル」のチョコレートタイルを、さまざまな形状に並べる。そして、「このタイルの数(かず)はいくつですか?」とそれぞれの形状のタイルを指して、「ご(5)」の答えを期待する。
- 最後のタイルの形状は「横一列」の「棒タイル」にする。
ここまでの学習が「シェーマ」(映像イコール「数詞」)の段階である。
「5」(ご)の棒タイルも、「4」(よん)の棒タイルとともに、直観で「5」(ご)の量としてとらえることは難しい。
- 「5」(ご)の棒タイルは、ちょっと見て「4」(よん)と区別することは難しい。しかし、「6」(ろく)になると「5」(ご)のかたまりと「1」(いち)という映像に切り換る。別世界に入る。
- 子どもにとっては、「5」(ご)よりも「4」(よん)の方が難しい。その意味で「4」と「5」は同格である。ここまでの「4」「5」のタイルと数詞の「二者関係」を練習することが大切だ。
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「二者関係」と「三者関係」を憶えましょう |
■解説
今回は、これまでにご紹介した「水道方式」の数(かず)の教え方のカリキュラムから「5」(ご)の数(かず)の学習の仕方をご紹介しました。ここでは、「二者関係」ということを学んでいます。「タイル」と「数詞(概念に相当します)」の両者は、「全く同じものである」という意味です。遠山啓(ひらく)は、幼児(小学生にも)にとっては「5」と「4」の数(かず)は直観ではつかみにくいので、「タイル」というイメージ(シェーマ)を「二者関係」(因果関係)の基準として憶えることが大切である、と説明しています。
「二者関係」とは、目の前に「タイル」しか置かれていないのに、頭の中には「タイル」のイメージと「数詞」がむすびついて思い浮ぶということです。
これは、「数詞」の「5」(ご)とか「4」(よん)という言葉を聞いたときに、「4」や「5」の『タイル』が思い浮ぶという二者関係のことでもあります。この「二者関係」が、実物のリンゴやゾウ、バナナ、スズメなどさまざまな「物」を見たときに、『タイル』との「一対一対応」が成り立って「三者関係」が表象されます。
これは、ブローカー言語野・3分の2のゾーンの「Y経路」の働きによる認知と認識にもとづく記憶であることはすでによくお分りのとおりです。
遠山啓(ひらく)の『水道方式』の学習は、ブローカー言語野・3分の2のゾーンで記憶されます。
すると、これをモデルにして、「言葉の学習」の仕方も成り立ちます。前回の本ゼミのエクササイズに引きついで、「比喩」の学習をとおして、知的な能力のつくり方のモデルをご紹介します。 |
エクササイズ・Ⅱ
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■事例・Ⅰ
- 「磯(いそ)のあわびの片想い」(ことわざ。故事。(概念)(数の数詞にあたる))
- 意味(『タイル』に相当する)
一方だけが恋しいと思っていて、相手がこの恋しい気持ちに応じてくれないことをいう。
この言葉は、アワビの貝がらは一枚だけ、のことからきている。ハマグリとかアサリは二枚貝である。アワビは、貝ガラが「対」になっていない。
用例
『万葉集』巻十一に「伊勢の白水郎(あま)の朝な夕なに潜(かず)くという鰒(あはび)の独念(かたおもひ)にして」というようにのべられている。
江戸時代になると、歌舞伎や落語の中にも「アワビは片思いのシンボル」としてぞくぞく出てくる。
しかし、アワビはじっさいは「巻き貝」の一種だから「貝ガラ」がないのは当りまえ。アワビは「片思いのまま一生を送る」といったら言いすぎだ、という説もある。
設問
「磯(いそ)のあわびの片思い」の用例として適切なものはどれですか?
- 春になると、隣の猫のミケは、ひとりでミャーミャー、ミャーミャーと鳴き叫んでいる。これはミケの「磯のあわびの片思い」だ。
- 山田五郎さんは、今、30歳で独身だ。理由は、中学1年生の時のクラスメートの小川京子さんが忘れられないためだ。毎日、アルバムを見ては「きょうこさま!!」とつぶやいている。これは、山田五郎さんの「磯のあわびの片思い」だ。
- 山口花子さんは、ホームヘルパーだ。介護している人から、「あなた、独身なら私のヨメになってくれないか?」といわれた。もちろん、花子さんは、「残りの人生に差がありますから」と断った。これは、介護されている男性の「磯のあわびの片思い」だ。
(正解?3) |
エクササイズ・Ⅲ |
■事例・2
- 「 覆水(ふくすい)盆(ぼん)に返らず」(ことわざ・故事。「概念」(数の数詞にあたる))
- 意味(『タイル』に相当する)
いちどこぼした水は、もう元の器にはもどらない、つまり「一度何か事を起こしたらとりかえしがつかない」という意味で用いられる。
用例
「一度、別れた男女の仲は、もう元には戻らない」といったように、おもに男女の関係のマイナスの意味で用いられる。
周(しゅう)の時代に、太公望(たいこうぼう)という人がいた。学問ばかりして貧乏がひどかった。妻はこれに愛想をつかして、実家に逃げた。だが、この太公望は立派になって出世した。すると、逃げた妻がひょっこり戻ってきた。「私が悪かった。仲良くしてほしい」と言った。
太公望は、お盆(ぼん)に水を入れて庭にこぼしてみせる。「この水をお盆に戻せるなら、再び仲良くしよう」と言った。これが語源といわれる。
設問
「覆水(ふくすい)盆(ぼん)に返らず」の用例として適切なものはどれですか?
- 佐藤順子さんは、高校一年生だ。クラスの中で、悪口を言われたと思いこみ、学校に行けない。とくに、山田一郎君がひどい悪口を言ったと思っている。
「覆水、盆に返らずよね」と学校に行かない決意は固い。
- 小林周一郎さんは、吉川菊子さんの上司だ。小林さんは、吉川さんの無断欠席を注意して、「必ず、事前に連絡を入れるように」と言った。吉川さんは「あの言い方が不快だ」と思い、「覆水盆に返らずよっ!!」と再び、欠勤した。
- 佐川夕子さんは、会社の同僚の黒川太郎さんから交際を申し込まれた。交際はつづいた。だが、黒川太郎さんは仕事の多忙がつづいて、三ヵ月も連絡しなかった。佐川さんは、「誠意がない。もう、覆水盆に返らずよ」と交際のお断りの手紙を書いた。
(正解?3)
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